
はじめに
家賃債務保証(いわゆる家賃保証)は、いまや賃貸募集の標準装備になりました。一方で、高齢者や低所得者、外国人などの入居希望者が「保証が通らない」ことを理由に、賃貸住宅へ入りにくい場面が残っています。
こうした課題に対応するため、2025年10月に施行されたのが「認定家賃債務保証業者制度」です。2026年1月現在、認定業者の一覧も公表されており、制度はすでに“使える状態”になっています。
この記事では、制度の骨格を押さえたうえで、「いま現場で何を確認し、どう判断すべきか」を、賃貸オーナー・管理担当者の目線で整理します。
家賃債務保証制度の現状
家賃保証が広がった背景には、連帯保証人を立てにくい世帯の増加や、管理実務の効率化があります。保証会社が入ることで、滞納時の回収や手続きが一定程度システム化され、現場は回しやすくなりました。
ただし、保証会社の審査は各社で基準が異なり、属性や収入状況によっては保証委託契約を断られることがあります。結果として、入居希望者の側に「借りられない壁」が残ってきました。
💡ポイント:家賃保証は普及しましたが、「誰でも同じ条件で使える」状態ではありません。
なぜ「認定制度」が必要になったのか
認定制度の狙いは、賃貸人(オーナー)や管理会社にリスクを押し付けることではありません。要配慮者(高齢者、低額所得者、外国人など)が入居しにくい局面で、保証の条件がボトルネックになるケースを減らし、入居の入口を整えることにあります。
制度上は「居住サポート住宅」を軸に、見守りや相談支援などと組み合わせて、住まいの確保と居住の安定を支える設計になっています。保証だけで解決しようとせず、支援の仕組みとセットで運用する発想が基本です。
認定家賃債務保証業者制度の仕組み
認定家賃債務保証業者制度は、登録家賃債務保証業者等のうち、一定の要件を満たす者を国土交通大臣が「認定」する仕組みです。ポイントは、要配慮者が利用しやすい保証の提供に焦点が当たっていることです。
認定要件は「要配慮者に使いやすい保証」の最低ライン
制度では、要配慮者への保証に関して、現場で詰まりやすい条件を外す方向で要件が整理されています。たとえば次のような考え方です。
- 居住サポート住宅に入居する要配慮者の申込みは、正当な理由なく断らない
- 契約条件として、緊急連絡先を親族などの個人に限定しない
- 契約条件として、家賃債務に係る保証人の設定を求めない
- 保証委託料が不当に高くならないよう配慮する
- 取扱実績や標準的な契約条件を公表し、透明性を確保する
💡ポイント:認定制度は「無条件に保証する制度」ではなく、「断り方が恣意的にならないようにする制度」です。
「正当な理由なく断らない」は、何でも通すという意味ではない
認定制度でも、正当な理由があれば保証を断り得ます。たとえば、家賃の支払い意思がないことを本人が明言している場合など、合理性のある例外は想定されています。
認定業者を使うと、JHFの保険拡充が“使える”
要配慮者の保証はリスクが高いと言われがちですが、認定制度では、認定業者のリスク低減策としてJHF(住宅金融支援機構)の保険を利用できる枠組みが用意されています。オーナー側にとっては、ここが最も大きい実務メリットになり得ます。
登録制度と何が違うのか
登録制度は、家賃債務保証業務の適正化(ルール整備)という側面が強いのに対し、認定制度は、要配慮者が利用しやすい保証を提供する業者を「見える化」し、入居の詰まりをほどく役割を担います。
両者は競合というより、目的が違う補完関係だと捉えるほうが実務的です。
💡ポイント:登録は「健全性の目安」、認定は「要配慮者に使いやすいことの目安」です。
賃貸オーナーへの影響と判断ポイント
認定制度ができたからといって、「誰でも入居可」に舵を切る必要はありません。むしろ大切なのは、入居判断を感覚から制度と運用へ寄せ、説明可能な状態にすることです。
まずは「認定業者かどうか」を確認する
2026年1月現在、国土交通省のサイトで認定家賃債務保証業者の一覧が公表されています。制度は更新される可能性があるため、導入・切替の検討時は必ず最新情報を確認してください。
JHF保険の拡充は、オーナー側の安心材料になる
認定業者が保証する場合、JHFの家賃債務保証保険が拡充され、未払家賃に加えて原状回復費用(残置物撤去費用・特殊清掃費用を含む)を保険対象に含められる枠組みが示されています。孤独死リスクなどを懸念するオーナーにとって、最も効く論点です。
| 観点 | 実務での見え方(要点) |
|---|---|
| 保険対象 | 未払家賃に加え、原状回復費用(残置物撤去・特殊清掃を含む)を含められる枠組み |
| 填補率 | 居住サポート住宅の要配慮者保証は9割、それ以外は7割といった整理 |
| 限度額 | 制度資料では保険金限度額は100万円とされているため、負担の上限感が作りやすい |
なお、保険の適用条件や商品性(どこまで付帯するか、実際の手続き)は保証会社側の運用にもよります。判断材料として、JHFの資料もあわせて確認しておくと安心です。
「貸しやすさ」と「運用ルール」はセットで考える
保証が整っても、運用が曖昧だとトラブルは減りません。募集条件、家賃設定、滞納時の連絡フロー、緊急連絡先の扱いなど、管理会社と役割分担を言語化しておくと、制度のメリットが出やすくなります。
💡ポイント:制度は「貸しやすくする」道具です。判断を手放すのではなく、判断を再現可能にします。
管理会社・仲介会社の実務対応
実務の主戦場は、入居審査と説明です。認定制度は「使えば安心」ではなく、「どう説明し、どう運用するか」で効き方が変わります。
説明は「制度の範囲」と「例外」をセットで
たとえば「正当な理由なく断らない」という認定基準がある一方で、支払い意思がない場合など合理的な例外も想定されています。断れるケースを隠すより、先に基準として共有したほうが、後工程のトラブルが減ります。
重要事項説明・契約実務で押さえるべき観点
- 保証の範囲(家賃債務のみか、原状回復等の付帯を含むか)
- 緊急連絡先の位置づけ(連帯保証人とは別であること)
- 滞納時の連絡順序(借主・緊急連絡先・支援主体など)
- 支援主体が関与する場合の役割分担(管理会社が抱え込まない設計)
リーガルリスクを「保証会社選定」で先に減らす
近年、家賃債務保証に関連する契約条項について、不適切な条項の差止めが認められた最高裁判決もありました。実務では、督促や解除の運用が荒い保証会社を選ぶと、借主対応のトラブルが増え、結果としてオーナー側の経営リスクにも跳ね返ります。
認定制度は、要配慮者の入居を進めるだけでなく、保証の運用をより説明可能にし、コンプライアンス面の不安を減らす観点でも活用価値があります。
💡ポイント:認定業者を選ぶことは、入居支援だけでなく「経営リスク管理」の一手にもなります。
まとめ
認定家賃債務保証業者制度は、要配慮者が賃貸住宅へ入りにくい原因の一つである「保証の壁」を下げるため、2025年10月に施行された仕組みです。2026年1月現在、認定業者一覧が公表されており、現場でも“使える情報”になっています。
実務で押さえるべきポイントは、次の3つです。
- まずは、現在利用している保証会社が「認定業者」かどうかを確認する
- 認定業者を使う場合、JHF保険の拡充(原状回復費用・残置物撤去・特殊清掃の扱い)を含め、リスク低減策を具体的に把握する
- 制度に頼り切らず、募集条件・連絡フロー・役割分担を言語化して運用を安定させる
次のアクションとしては、「自社・自物件で使っている保証会社が認定を受けているか」を確認し、受け入れ判断の基準を管理会社と共有しておくところから始めるのが安全です。
用語紹介
- 認定家賃債務保証業者
- 住宅確保要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者として、一定の要件を満たす者を国土交通大臣が認定した事業者を指します。
- 家賃債務保証
- 賃借人が家賃等を支払えない場合に備え、保証会社が賃貸人に立替払い等を行う仕組みを指します。
- 居住サポート住宅
- 見守りや生活相談などの支援体制を備え、要配慮者の居住の安定を図る枠組みの中で位置づけられる住宅を指します。
- 緊急連絡先
- 連帯保証人とは別に、連絡・安否確認等のために設定される連絡先を指します。