
はじめに
土地の「所有」と「利用」を分けて考えるのが、借地権と底地権です。賃貸オーナーや相続実務に関わる方は、この二つの関係と借地権割合(=自用地価額に対する借地権部分の割合)を正確に押さえる必要があります。本記事では、仕組みの全体像から、路線価図の「10,500 B」という具体例を用いた評価の基本、売買・相続での留意点までを実務目線で整理します。
借地権と底地権の仕組み
借地権は「他人の土地を借りて建物を所有・利用する権利」、底地権は「その土地を所有する地主の権利」を指します。両者は重なり合って1つの土地の価値を構成します(自用地=更地価額)。自用地価額は借地権価額と底地権価額に分かれ、合計が更地価額になります。
借地権割合の基礎と調べ方(10,500 B 例)
借地権割合は、国税庁の路線価図・評価倍率表に毎年公表されます。路線価の表記は 価額(千円/㎡)+アルファベット で構成され、アルファベットが借地権割合を表します。
- 例:10,500 B … 「10,500」は 10,500千円/㎡=1,050万円/㎡ を意味し、B は借地権割合80%を表します(凡例:A=90%、B=80%、C=70%、D=60%…)。
- この表記は当該道路に接する標準的画地の目安で、実務の評価では各種補正(奥行・角地・間口等)を加味します。

評価と価格算定の考え方(10,500 B 例)
基本式
- 更地価額(A) = 路線価(円/㎡) × 地積(㎡)
- 借地権価額 = A × 借地権割合
- 底地権価額 = A ×(1 − 借地権割合)
サンプル計算(実数例:10,500 B を採用)
| 項目 | 設定・計算 |
|---|---|
| 路線価の読み取り | 10,500 B = 10,500千円/㎡(= 1,050万円/㎡)、借地権割合 80% |
| 地積(例) | 100㎡ |
| 更地価額(A) | 1,050万円/㎡ × 100㎡ = 10億5,000万円 |
| 借地権価額 | A × 80% = 8億4,000万円 |
| 底地権価額 | A × 20% = 2億1,000万円 |
※ 実務では、地積規模・不整形・間口奥行・角地・広路線/裏面路線などの補正、ならびに賃貸借条件(地代水準・更新条件・承諾慣行等)を加味して調整します。

売買・譲渡・相続の実務
借地権の売買・譲渡
- 借地権の譲渡・建替えには、契約や借地借家法に基づく地主の承諾が必要となる場合が多い(承諾料の慣行あり)。
- 名義変更や建替承諾の条件は、事前に文書で確認し、費用・スケジュールを明確化する。
底地の売却・整理
- 借地人への優先交渉は実務上の解決策として有効(収益化・管理簡素化)。
- 借地権者と底地権者の共同売却(一体売り)は、権利調整コストを抑え市場価値を引き上げやすい。
相続時の留意点
- 借地権・底地権は分けて評価(路線価・借地権割合・補正を確認)。
- 相続人間の共有・分割方法の設計(等価交換、持分調整、信託の活用等)を早期に検討。
よくあるトラブルと対応
- 地代未払い・更新料紛争:契約条項・相場・改定協議の手順を確認し、記録を残す。
- 老朽建物の建替え:承諾条件(地代改定・敷地増減・期間)を事前合意。
- 売買時の価格ギャップ:一括売却や等価交換で利害調整し、市場流通性を確保。
- 承諾料の算定:地域慣行・収益影響・代替案(保証金・差額地代)を客観化。
オーナー/借地人の対応戦略
地主(底地権者)
- 安定収益化(適正地代・延長条件の明確化)と資産組み換え(共同売却・等価交換)を両睨み。
- 承諾行為はルール化し、承諾料や条件の算定根拠をドキュメント化。
借地人(借地権者)
- 建替・譲渡・相続のイベント前に承諾条件を確認。コストとタイムラインを見積もる。
- 将来の一体売り・買取交渉・等価交換の選択肢を比較検討。
共通
- 路線価・借地権割合・各種補正の最新確認を習慣化。協議は記録ベースで進める。
まとめ
借地権と底地権は、一体となって土地の価値を構成します。評価の起点は「更地価額 × 借地権割合」であり、路線価図の具体例(10,500 B)に当てはめると、数字の根拠と水準感を掴みやすくなります。実務では、承諾条件・補正・地域慣行が価格や合意形成に影響するため、データと記録に基づく交渉・意思決定を心がけましょう。
用語紹介
- 借地権割合
- 自用地(更地)価額に対する借地権部分の割合。国税庁の路線価図・評価倍率表で地域ごとに公表される(例:B=80%、C=70%、D=60%)。
- 借地権
- 他人の土地に建物を所有するための地上権・賃借権。評価は「更地価額×借地権割合」を基本とする。
- 底地権
- 土地の所有権のうち、借地権設定後に地主が持つ権利部分。価額は「更地価額×(1−借地権割合)」が目安。
- 路線価
- 道路に面する標準的画地の1㎡当たりの価額(千円単位表示)。例:10,500=1㎡あたり1,050万円。