
はじめに
賃貸管理の現場は、今後「説明責任の明確化」と「電子証跡の標準化」が軸になります。国土交通省は2025年9月5日に有識者会議の初会合を開催し、敷金・原状回復、サブリース、電子契約・証跡管理などを俎上に載せました。この記事では、背景と論点を整理し、直ちに整えるべき社内ドキュメントと運用の要点をまとめます。
背景と目的
制度の定着とデジタル化への対応
賃貸住宅管理業法の新法施行から丸4年。本制度は定着しつつありますが、暮らし方の変化とデジタル化の進展で、管理実務は複雑化しました。有識者会議は、制度の普及促進と必要な改善策を検討し、令和7年度内に方向性を取りまとめる予定です。したがって、現場は今のうちから運用と証跡を整える必要があります。
主要論点(実務の要点)
1. サブリースの勧誘・契約の適正化
要点は、勧誘時の説明内容と収支前提の明示、同意取得の厳格化です。広告表示の根拠、感度分析の前提、オーナー同意の記録を一体で管理すると、紛争予防につながります。最後に示唆として、説明書式の統一と電子保管を早期に標準化しましょう。
2. 電子契約・電子証跡管理の標準化
要点は、電子署名・本人確認・タイムスタンプ・アクセスログ・改ざん検知といった証跡の要件定義です。ツール導入だけでなく、運用規程(権限・承認フロー・バックアップ)を整備すると、監査対応が容易になります。
3. 原状回復・敷金精算の実務明確化
要点は、入退去の記録(写真・動画・採寸)と費用算定根拠の標準化です。通常損耗・経年変化の線引きを再確認し、見積・修繕履歴を時系列で保存します。ガイドラインの参照と社内手順化で、説明の一貫性が高まります。
4. 登録制度や更新手続の厳格化(検討方向)
要点は、体制の実効性とコンプライアンスの透明性です。教育・監査ログを定期化し、社外説明に耐えるドキュメント体系を構築しておくと、制度改正後もスムーズに移行できます。
準備すべきドキュメント
① 電子契約・電子証跡運用規程
- 対象契約の範囲(賃貸借・管理委託・サブリース関連等)
- 署名方式・本人確認・多要素認証の定義
- 証跡要件:タイムスタンプ、アクセスログ、改ざん検知
- 保存年限・バックアップ・災害復旧(BCP)
- 権限管理・二重承認・監査手順
② 原状回復・敷金精算マニュアル
- 入退去時の撮影ルール(角度・枚数・命名規則)と採寸要領
- 費用算定の根拠(通常損耗・経年変化の線引き)
- 見積・修繕履歴の保存方法(案件単位の時系列管理)
- 入居者・オーナーへの説明書式(Q&A・同意記録)
③ サブリース説明書・同意取得書式
- 収支シミュレーション(賃料・空室率・修繕費)の前提開示
- リスク説明(家賃改定・中途解約・再勧誘禁止の遵守)
- 広告表示の根拠資料の添付と保存
- 同意取得の方法(電子署名・署名ログ・再説明のタイミング)
想定される影響
コストと競争力のバランス
短期的には文書整備・ツール導入のコストが発生します。しかし、証跡の標準化はトラブルコストと再作業を削減し、説明の再現性を高めます。結果として、オーナー・入居者双方の信頼を獲得でき、解約や空室のリスク低減が見込めます。
スケジュールと一次情報
開催情報と公的資料
第1回は2025年9月5日(金)開催(非公開)。国土交通省は令和7年度内に方向性を取りまとめ予定です。一次情報と関連資料は次をご参照ください。
まとめ
本件は「デジタル化×説明責任」強化への転換点です。①電子契約・証跡運用規程、②原状回復・敷金精算マニュアル、③サブリース説明書・同意取得書式の3点を作成し、暫定運用を始めましょう。次回以降の議論に合わせて改訂すれば、制度改正後も揺らがない体制になります。
用語紹介
- 電子証跡
- 契約や説明過程の記録(ログ・タイムスタンプ等)を指します。
- 通常損耗・経年変化
- 通常の使用や時間経過で生じる劣化を指します。
- サブリース
- 事業者が一括借上げし転貸するスキームを指します。
- 賃貸住宅管理業法
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化を目的とする法律を指します。