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原状回復トラブル防止・完全ガイド:契約・記録・対話でつくる「揉めない実務」

Taro 2025年12月26日 1 minute read
目次
  • まえがき
  • 用語の定義について
  • 序章:原状回復の正しい考え方
  • 第1章:トラブルを防ぐ契約の実務
  • 第2章:証拠を残す現場管理
  • 第3章:精算・算定のロジック
  • 第4章:現場の対話術とトラブル対応
  • 終章:実務チェックリスト
  • あとがき
  • 用語紹介

まえがき

原状回復は、賃貸経営において最もトラブルが起きやすい場面の一つです。しかし同時に、トラブルの多くは事前に防ぐことができるものでもあります。

問題が起きたあとに場当たり的に対応するのではなく、契約から退去までを一貫したロジックでつなぐこと。それが「揉めない原状回復」を実現するための近道です。

本ガイドは、法律論の羅列ではなく、現場で判断する賃貸オーナー・管理会社の実務者が、手元に置いて辞書のように使えることを目的に作成しました。

用語の定義について

本ガイドでは、「借主」= 賃貸借契約上の賃借人(一般にいう入居者)という意味で用語を統一しています。実務上「入居者」という表現が使われる場面もありますが、契約・法的整理との一貫性を保つため、本書では「借主」に統一します。


序章:原状回復の正しい考え方(マインドセット)

原状回復トラブルは、退去時に突然発生するように見えます。しかし実務を振り返ると、問題の芽は契約前・入居時・入居中にすでに生まれているケースがほとんどです。

原状回復とは「借りた当時の状態に戻すこと」ではありません。

通常の使用によって生じた損耗(通常損耗・経年劣化)は貸主負担、借主の故意・過失、通常使用を超える使い方による損耗は借主負担という、公平な線引きを行うための考え方です。

この前提を共有せずに「原状回復だから全部借主負担」「実際に修繕費がかかったから請求できる」と進めてしまうと、借主の不信感を招き、話し合いは難しくなります。

第1章:トラブルを防ぐ契約の実務(契約書・特約・重説)

契約書は「権利主張の道具」ではない

賃貸契約書は、トラブルが起きたときに相手を論破するための書類ではありません。本来の役割は、トラブルを未然に防ぐための共通ルールです。

原状回復に関する条文では、原則(通常損耗は貸主負担)と例外(特約で借主負担とする部分)が整理されているかが重要です。

原状回復特約が有効と判断されるためのポイント

実務・判例・ガイドラインを踏まえると、特約の有効性は主に次の3点で判断されます。

  • 内容が具体的で明確か
  • 必要性・合理性があるか
  • 借主が理解して合意したと言えるか

裁判所は「署名があるか」よりも「理解のプロセス」を重視します。

「形だけの署名」が否定される理由

極端に小さな文字で書かれた特約や、他の大量書類に紛れて説明されなかった条項は、実質的な合意がなかったと判断されるリスクがあります。

実務では、特約部分を別枠で表示し、個別署名をもらうなど、合意の証拠を残す工夫が重要です。


第2章:証拠を残す現場管理(入居時・入居中・退去時)

原状回復は「事実が確定していないと始まらない」

ガイドラインも判例も、事実関係が確定していることを前提にしています。どこに傷があるのか、それはいつからあったのかが分からなければ、正しい判断はできません。

入居時チェックは最重要ポイント

  • 室内全体を写真+動画で記録
  • 傷・汚れをチェックシートに記載
  • 借主と一緒に確認

写真は点、動画は線です。動画で一周撮るだけでも撮り漏れを防げます。

入居中の対応が退去時に効いてくる

入居中のやり取りは退去時の判断に直結します。結露やカビを認識していながら報告せず、換気などの対応もしないまま放置して被害が拡大した場合、善管注意義務違反の有力な証拠になり得ます。

退去立会いは「交渉の場」ではない

退去立会いの目的は事実確認です。その場で金額を即答せず、判断は持ち帰り、借主の話を一度受け止める姿勢が感情的対立を防ぎます。

第3章:精算・算定のロジック(ガイドライン・判例・減価償却)

原則の整理:ガイドライン → 判例

本ガイドでは、原則(ガイドライン)→法的解釈(判例)の順序で整理します。ガイドラインは法律ではありませんが、裁判所が判断の参考にする実務上の基準です。

ガイドラインは「翻訳」して使う

数字をそのまま出すより、納得できる言葉に置き換えることが重要です。

×「ガイドラインでは壁紙は6年で1円です」

○「壁紙は6年使うと価値がほぼ無くなると考えられています。今回は3年お住まいなので、半分は貸主負担、残り半分を基準に計算します」

経過年数・減価償却の考え方(算定の仕組み)

原状回復費用の算定は、修繕費総額に「残存価値の割合(あと何年使えたか)」を掛ける考え方が基本です。

【基本の算定式】

修繕費用総額 ×
残存年数(あと何年使えたか)
耐用年数(全体の寿命)
= 借主負担額

算定の具体例

壁紙(耐用年数6年)を入居3年で汚損し、張り替え費用が6万円かかる場合:

60,000円 ×
3年(残り期間)
6年(全体の寿命)
= 30,000円(借主負担額)

※注意:年数調整の対象外となるもの
ハウスクリーニング費用、鍵交換費用、および善管注意義務違反(故障の放置など)による損害は、原則としてこの年数調整は適用されず、借主が全額負担となります。

業者見積と請求判断は別

業者は「綺麗に直す」ことが仕事です。一方で、どこまで借主に請求するかを判断するのはオーナー・管理会社の仕事です。全面張り替えを行う場合でも、汚損部分は借主負担、残りは貸主負担という切り分けを説明できるようにしましょう。


第4章:現場の対話術とトラブル対応(事例別対策・説明術)

なぜここまで丁寧な説明が必要なのか

賃貸借契約は、貸主・管理会社と借主の間に「情報の非対称性」がある契約です。制度や慣行を知る側と、知らないまま契約する側が存在する以上、裁判所は説明責任を貸主側に強く求める傾向があります。

よくある対立と説明の型

借主から「普通に住んでいただけです」と言われた場合は、まず通常損耗を認めたうえで切り分けます。

説明例:「家具の設置跡や日焼けは通常損耗として貸主負担です。その上で、この汚損は通常使用を超えています」

ガイドラインを盾にされた時の返し方

クッション言葉の例:

「おっしゃる通り、ガイドラインが原則的な考え方です。その上で、今回の契約ではこの部分について特約で合意していますので、一緒に確認させてください」

請求時は「A4一枚の説明」を添える

請求書と併せて、ガイドラインの考え方、当該物件への当てはめ、経過年数・例外整理をまとめた算定根拠説明資料(A4一枚)を同封すると、対立を大きく減らせます。

終章:実務チェックリスト(保存版)

原状回復トラブルを防ぐ本質は、次の「黄金の三角形」に集約されます。

  • 契約(ルール)
  • 記録(証拠)
  • 対話(説明)

どれか一つが欠けてもトラブルの火種になります。迷ったときは、この3点がそろっているかを確認してください。


あとがき

原状回復に、唯一絶対の正解はありません。しかし、本ガイドで示した「契約・記録・対話」の積み重ねは、どのようなトラブルに直面しても、あなたを守る強固な盾となります。

現場での誠実な実務の積み重ねが、より良い賃貸経営の礎となることを願っています。

用語紹介

通常損耗
通常の使用により自然に生じる汚れや傷みを指し、原則として貸主負担となるものです。
特約
原則とは異なる負担や条件について、当事者が合意して定めた契約条項を指します。
善管注意義務
借りた物を社会通念上当たり前の注意を払って大切に使う義務を指します。
算定根拠説明資料
請求額の考え方や計算の前提をA4一枚程度で整理し、借主に説明するための資料を指します。

著者について

Taro

Administrator

首都圏在住。管理会社に勤務し、賃貸管理業に従事しています。 事業主側で不動産売買と収益物件の管理を経験し、その後、現在の管理会社に転身しました。 保有資格: 宅地建物取引士 賃貸不動産経営管理士

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