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第一回:高齢者の賃貸入居は避けられない?オーナー・管理会社が「実務で困らない」ための最初の整理

Taro 2025年12月20日 1 minute read
目次

  • はじめに
  • 高齢者入居が「当たり前」になる背景
  • オーナー・管理会社が抱えやすい4つの不安
  • 国のガイドラインで何が整理されたのか
  • 受け入れ前にやっておくと安心な準備
  • よくある質問
  • まとめ
  • 用語紹介

はじめに

「高齢者の入居相談が増えてきた」「保証人がいないと言われた」「万一のとき、誰が動くのか不安」――賃貸の現場では、こうした声をよく耳にします。これまでは“できれば避けたい”と判断できた場面もありましたが、今後は高齢者の住まい探しが当たり前になるなかで、オーナー・管理会社側にも現実的な対応力が求められます。

本連載では、国が公表した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン(令和6年6月)」を手がかりに、難しい制度の話に寄りすぎない形で、賃貸実務に落とせるポイントを整理していきます。

第1回は、まず全体像です。高齢者入居が増える背景と、現場で不安になりやすい論点を整理し、次回以降の理解がスムーズになる“地図”を作ります。

高齢者入居が「当たり前」になる背景

単身高齢者が増え、頼れる人が近くにいない

高齢化の進展や核家族化などの影響で、高齢者の単独世帯は増えています。高齢期は入退院や施設の入退所など、生活を左右する出来事が起きやすい時期です。しかし、身寄りがない、家族がいても身近に頼れる人がいない状況の方も少なくありません。

その結果、「入院の手続き」「緊急連絡先」「退院後の生活」「死亡後の手続き」など、本人だけでは回らない事務が増えていきます。賃貸入居の相談が増えるのは、こうした流れと無関係ではありません。

民間の“身元保証・死後事務”サービスが広がっている

こうした社会背景のなかで、身元保証や死後事務、日常生活支援などを提供する民間サービス(高齢者等終身サポート事業)が増えてきました。需要は今後さらに増えると見込まれています。

一方で、契約が長期にわたり、費用が前払いになることも多く、利用者側が「ちゃんと履行されているか」を確認しにくいという特徴があります。加えて、判断能力の低下が懸念される高齢者が利用者となるケースも多いため、契約の適正さや説明のわかりやすさが重要になります。


オーナー・管理会社が抱えやすい4つの不安

なお、行政文書などでは「孤立死」や「身寄りのない方の死亡」と表現されることもあります。本記事では、読者の皆さまに馴染みのある言葉として、身寄りのない方が一人で亡くなるケースを総称して「孤独死」と表現します。

【不安1】緊急時の「誰が動く?」が決まっていない

高齢者の単身入居で現場が困りやすいのは、緊急時の連絡先が機能しないケースです。救急搬送の立ち会い、入院手続き、鍵の扱いなど、判断と対応が同時に発生します。誰に連絡し、どこまで確認してよいのかが曖昧だと、初動が遅れやすくなります。

また、死亡が疑われる場合には警察や行政とのやり取りが発生し、「誰が死亡後の手続きを進めるのか」が見えないままだと、現場対応が長引きやすくなります。オーナー・管理会社が“想定外の事務”に追われないためにも、あらかじめ連絡先と権限関係を整理しておくことが大切です。

【不安2】保証人がいない・家賃滞納時の回収が不透明

保証人不在は、入居審査の段階で最も目立つ課題です。家賃保証会社で一定の対策はできますが、緊急連絡先や入院時の身元引受など、金銭以外の“保証に近い役割”は別問題として残ります。

【不安3】判断能力の低下で、更新・解約などの同意が取りにくい

入居時点では問題がなくても、数年後に認知症が進行することはあり得ます。更新や解約、修繕の同意など、賃貸借に関する意思確認が難しくなると、実務が詰まりやすくなります。ここは「最初の契約設計」と「連絡体制づくり」でリスクを下げられる領域です。

【不安4】死亡後の退去・残置物処理が進まず、物件が止まる

そして、オーナー・管理会社が本音で最も怖いのがここだと思います。入居者が亡くなった後、相続人が不明、連絡がつかない、意思決定できる人がいない――この状態になると、室内の残置物整理や契約の終了手続きが進まず、物件の回復が遅れます。

次の募集ができない期間が伸びれば、機会損失が積み上がります。さらに、残置物の扱いを誤ると法的トラブルにもなり得ます。実務では「いつ・誰が・どの権限で動くのか」を、できるだけ事前に固めることが重要です。

なお近年は、利用者の不安につけ込むような契約トラブルが問題になったこともあり、国がガイドラインを整備した背景には、こうしたリスクから利用者だけでなく関係者(貸し手側も含む)を守る狙いがあります。第4回では、この点を“オーナーが確認できるチェックリスト”として整理します。

国のガイドラインで何が整理されたのか

ガイドラインの位置づけ

「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」は、身元保証や死後事務などを行う事業者が、適正な運営を行うために留意すべき事項をまとめたものです。事業者向けである一方、利用者が事業者を判断する目安にもなり得るとして、別紙のチェックリストも用意されています。

賃貸実務に直結するポイントは「死後の賃貸借契約」と「残置物」

賃貸の現場にとって特に重要なのは、死亡後に賃貸借契約や残置物を円滑に処理できるよう、あらかじめ「①賃貸借契約の解除」と「②残置物の処理」に関する死後事務委任契約を締結しておくことが望ましい、という整理です。

この“事前の取り決め”があるかどうかで、物件の回復スピードが変わります。実務目線でいえば、次の募集までの期間を短くできる可能性が高まるため、オーナーにとっては大きな安心材料になります。

さらに、契約書作成の参考として、国土交通省・法務省が公表している「残置物の処理等に関するモデル契約条項」が示されています。実務では「何をどう書けばよいか」で止まりがちなので、手がかりがあるだけでも前に進みやすくなります。

参考:国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」

連載では「オーナーの安心」に翻訳して解説する

ガイドラインは、法律用語や契約論点が多く、読み慣れていないと理解に時間がかかります。そこで本連載では、賃貸の現場で実際に判断が必要になる場面を起点に、次の順番で整理していきます。

  • 第2回:終身サポート事業者は何をしてくれるのか(身元保証・死後事務の中身)
  • 第3回:賃貸に効く契約の考え方(死後事務委任、契約が止まらないための設計)
  • 第4回:悪質業者を避けるチェックポイント(ガイドライン準拠の確認項目)
  • 第5回:受け入れの実務フロー(入居前・入居中・万一の初動)

受け入れ前にやっておくと安心な準備

準備1:連絡体制を“書面で”見える化する

まずは、緊急時の連絡先、連絡の優先順位、鍵の取り扱いを、口頭ではなく書面で整理しておくと安心です。管理会社内でも共有し、担当が変わっても同じ動きができる状態を作ります。

準備2:「死後に誰が動くか」を入居前に確認する

次に、入居者が終身サポート事業者と契約している場合は、死亡後の手続きの範囲(賃貸借契約の解除、残置物の扱い、相続人への連絡方針など)を、入居前に確認しておくことが重要です。ここが曖昧だと、物件回復が遅れやすくなります。

準備3:できる範囲で“万一のコスト”を把握しておく

特殊清掃、原状回復、残置物整理などは、状況により費用が大きく変わります。すべてを事前に決めるのは難しいものの、相場感を持ち、必要に応じて保険や外部業者の候補を準備しておくと、いざというときに慌てにくくなります。

次回は、終身サポート事業者が担う「身元保証」と「死後事務」の具体像を、賃貸の現場で役立つ形に落として解説します。

よくある質問

Q. 終身サポート事業者と家賃保証会社は同じですか?

A. 同じではありません。家賃保証会社は賃料債務の保証に強みがあります。一方、終身サポート事業者は、緊急連絡先、入退院時の支援、死後の手続きなど、生活と事務をまたぐ支援を担うことがあります。何が含まれているかは契約内容で変わるため、入居前に範囲を確認すると安心です。

Q. 「死後事務」があれば、残置物は必ずすぐ片付きますか?

A. 「必ず」と言い切れるものではありませんが、事前に「賃貸借契約の解除」と「残置物の処理」を死後事務委任契約で取り決めておくと、動き出しは格段に早くなります。加えて、形見分けの希望や処分方針も生前に整理しておくと、現場の迷いが減ります。

Q. 高齢者の入居を受け入れるうえで、最初に何を優先すべきですか?

A. まずは「連絡体制」と「万一のときに誰が動くか」を優先すると実務が安定します。入居後に問題が起きても、連絡先と権限関係が明確なら初動が揃い、結果としてトラブルを減らせます。


まとめ

高齢者の賃貸入居は、今後さらに増えていきます。そのとき、オーナー・管理会社が不安を感じるのは自然なことです。ただ、論点を分解して準備すれば、リスクは現実的なレベルまで下げられます。

  • 高齢者入居の増加は、単身高齢者の増加と支援ニーズの拡大が背景にあります。
  • 賃貸実務の不安は「緊急対応」「保証」「判断能力低下」「死後の退去・残置物」に集約されます。
  • 国のガイドラインでは、死亡後に備えた契約設計(解除・残置物の取り決め)を重要視しています。

もし高齢者の入居相談が来たら、まずは「連絡体制」と「死亡後の動き方(解除・残置物)」が見える状態かを確認してみてください。それだけでも、実務の不安はかなり軽くなります。

次回は、終身サポート事業者が実際に提供する「身元保証」「死後事務」の中身を、賃貸の現場目線で整理します。入居希望者が契約しているサービスを見たときに、どこを確認すべきかが見えてくるはずです。

用語紹介

高齢者等終身サポート事業
身元保証、死後事務、日常生活支援などを契約に基づき提供する民間の支援サービスを指します。
身元保証(等サービス)
金銭的な保証に加え、入院時の手続きや緊急時の連絡・駆け付けなど家族が担ってきた役割を代行する支援を指します。
死後事務委任契約
本人の死亡後に行う手続き(葬送、行政手続き、賃貸借の終了や残置物処理など)を受任者に委任する契約を指します。
残置物
退去や死亡後に室内に残された動産(家具・家電・衣類・生活用品など)を指します。

著者について

Taro

Administrator

首都圏在住。管理会社に勤務し、賃貸管理業に従事しています。 事業主側で不動産売買と収益物件の管理を経験し、その後、現在の管理会社に転身しました。 保有資格: 宅地建物取引士 賃貸不動産経営管理士

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