
はじめに
夜逃げ・無断退去・孤独死・長期音信不通――賃貸経営で最も対応が難しいトラブルは、法的手続と残置物処理が絡み、解決までに時間と費用がかかります。スムービングサービスは、入居者とあらかじめ委任契約を結ぶことで、非常時に弁護士通知→契約解除→残置物処理→原状回復までを合法的に迅速化する仕組みです。本記事では、仕組み・効果を整理します。
スムービングサービスとは
入居者が行方不明・死亡・無断退去となった場合に、貸主や管理会社が単独では行えない手続を、入居者本人の事前委任により実行できるようにするサービスです。家賃保証会社と連携し、ビジネスモデル特許に基づくスキームで運用されます。
- 対象:家賃保証会社の承認物件(年齢・国籍は原則不問)
- 契約形態:入居者とサービス提供者の二者間契約(任意・オプトイン)
- 目的:明渡しまでの時間短縮、費用圧縮、法的リスクの低減
法的課題と解決の仕組み
なぜ第三者(貸主・管理会社)は勝手に処理できないのか
賃貸借契約の解除や残置物の廃棄は、入居者本人の意思表示や裁判手続を要します。独断で撤去・交換鍵・処分を行うと自力救済に当たり違法となる恐れがあります。
委任契約により合法的に前倒しする
入居時に入居者がスムービングサービスへ委任契約を締結。非常時(無断退去・孤独死・長期不通等)には、弁護士が入居者の代理人として内容証明で契約解除・所有権放棄通知を発行し、撤去・保管・原状回復を適法に進めます。
サービス内容と対応フロー
- 非常事由の判定(例:家賃滞納が一定期間+30日以上連絡不能/単身者の死亡 等)
- 弁護士からの内容証明(契約解除・残置物取扱い・引渡期限の通知)
- 残置物の撤去・保管(第三者物の取扱いルールを踏まえて実施)
- 原状回復・清掃(必要に応じて実働手配)
- 再募集へ(鍵交換・室内写真・広告差替えまで一気通貫)
費用・損害軽減効果
通常の明渡訴訟~残置物処理では、弁護士費用・執行費用・保管費などで高額・長期化しがちです。スムービングサービスでは、通知に基づく任意明渡しを前提に工程を短縮でき、総費用と空室期間の双方を圧縮できます(モデルケースでは、通常約90万円規模→約20万円台まで縮減する事例あり)。
加入対象と注意点
- 家賃保証会社の承認物件であること(審査・与信の前提整備)
- 入居時の契約時のみ加入可(あとから付け足しは不可)
- 任意サービスのため、強制加入にしない(選択の自由を明示)
- 個人情報の第三者提供・委任範囲・解約方法を書面で明確化
オーナーが負担してでも導入する価値
メリット
- 最悪シナリオ時の損害幅を限定(費用・期間・心理的負担の軽減)
- 再募集までの時間短縮で実質稼働率を引き上げ
- 「非常時サポート付き」表記により募集面の安心材料を提供
オーナー負担が有効なケース
- 単身者比率が高く、孤独死・長期不通リスクが統計的に高い物件
- 遠隔オーナーや小規模物件で、訴訟リソースが限られる場合
- 事故対応の経験が乏しく、初動ミスの回避を重視する管理体制
よくある質問
Q. 自力救済にならない?
A. 入居者の委任に基づき弁護士が通知・手配を行うため、手続の適法性が担保されます。
Q. 第三者の荷物があったら?
A. 所有権確認と保管プロセスを踏み、第三者物の取扱いルールに従って対応します。
Q. 契約はいつ締結する?
A. 原則として入居契約時のみ。後付けは不可です。
まとめ
スムービングサービスは、夜逃げ・孤独死・長期不通といったまれだが致命的なリスクに対する“事前の法務備え”です。任意加入であることを前提に、物件特性とリスク許容度に応じて、オーナー負担での導入も選択肢に入れて検討しましょう。非常時の初動を仕組み化できれば、損害は小さく、再稼働は速くなります。
用語紹介
- 自力救済
- 裁判等の適法手続を経ずに実力で権利実現を図る行為。賃貸では違法となる可能性が高い。
- 内容証明郵便
- 差出人・宛先・文面・日付を公的に証明できる郵便。催告・解除通知等で用いられる。
- 残置物
- 退去時に室内に残された動産。所有権の所在に留意し、保管・処分手続が必要。
- 任意明渡し
- 裁判・執行によらず、通知・合意により占有を解消して引渡しを受けること。