
本件は、賃借人が賃貸借契約の更新時に定められた更新料を、2回の更新時期にわたり長期間支払わなかったことを理由として、賃貸人が賃貸借契約を解除し、建物の明渡しと未払更新料の支払いを求めた事案です。裁判所は、更新料不払いの期間や態様が著しく、当事者間の信頼関係を修復不可能な程度に破壊したとして、賃貸人の請求を認めました。
事案の概要
賃貸人と賃借人は、居住用建物について2年間の賃貸借契約を締結しました。本件契約には、更新時に更新後の賃料1か月分を更新料として支払う旨の更新特約が定められていました。
賃借人は、第1回更新時に更新を希望する意思表示を行ったものの、更新料を支払わず、その後も賃貸人からの再三の請求や催告に応じませんでした。さらに、第2回更新時においても、過去の未払更新料を含めた支払いを行いませんでした。
賃貸人は、更新料の長期かつ反復的な不払いにより、当事者間の信頼関係が破壊されたとして賃貸借契約を解除し、建物の明渡しおよび未払更新料の支払いを求めて訴えを提起しました。これに対し賃借人は、「契約は法定更新されているため更新料支払義務はない」などと主張して争いました。
判決の要旨
- 合意更新の成立:賃借人は、更新特約の存在を前提に更新の意思を明確に表明しており、本件契約は法定更新ではなく、更新特約に基づく合意更新である。したがって、更新料支払義務から逃れることはできない。
- 更新料特約の有効性:更新料特約は、高額に過ぎない限り有効とする最高裁判例(平成23年)に照らしても有効であり、本件ではその有効性が前提となる。
- 更新料不払いの態様:賃借人は、第1回更新料について約2年9か月、第2回更新料についても約9か月にわたり支払いを怠っており、その期間は極めて長期かつ反復的である。
- 正当理由の不存在:賃借人が主張する賃貸人側の対応不備は、更新料支払義務を免除する事情には当たらず、不払いを正当化する理由とはならない。
- 無催告解除の可否:2回にわたる更新料不払いと長期間の放置により、もはや警告(催告)をしても信頼関係の回復は期待できない状態に至っており、無催告解除が認められる。
位置づけと実務上のポイント
1. 更新料不払いは「信頼関係破壊」の問題
本判決は、更新料を支払わなかったという事実そのものではなく、不払いの期間・回数・改善の見込みを総合評価して、信頼関係が破壊されたかを判断しています。
2. 無催告解除が認められた点の重み
通常、賃料不払い等では解除前に催告が必要ですが、本件では、2回もの更新料不払いと長期間の放置があったため、「もはや催告するまでもなく信頼関係は修復不可能」と判断されました。この無催告解除が認められた点は、本件の特筆すべきポイントです。
3. 更新料単体での解除はハードルが高い
実務上、更新料不払いは賃料不払いよりも解除のハードルが高いとされる傾向があります。本件は、2回分・約3年という極めて長期かつ反復的な不払いがあったからこそ、解除が認められた事例である点に注意が必要です。
4. 法定更新を避けるための実務対応
- 更新時期の数か月前から、書面で合意更新の意思確認を行う
- 更新料・更新条件を明確に記載した通知を送付し、履歴を残す
- 不払いを漫然と放置しない
まとめ
東京地判平成29年9月28日判決は、更新料不払いが直ちに解除を正当化するものではない一方で、長期かつ反復的な不払いは信頼関係を破壊する背信行為に当たることを明確にしました。更新料特約の有効性を前提に、その「不払いの悪質性」が問われた点で、更新料トラブルの実務判断に重要な指針を与える判例です。
用語紹介
- 更新料
- 賃貸借契約の更新に際し、賃借人が賃貸人に支払う金銭。
- 更新特約
- 更新料の支払いなどを条件として契約を更新できる旨を定めた特約。
- 信頼関係破壊の法理
- 継続的な契約関係を維持できないほど、当事者間の誠実さが失われた状態を理由に、契約解除を認める考え方。
- 無催告解除
- 本来必要とされる催告を行わずに、直ちに契約を解除すること。