
本件は、賃貸住宅において給水設備の故障により一部が使用できなくなった事案で、借主がその期間中の賃料減額を請求したものです。裁判所は、「一部使用不能」に該当するかを具体的事実関係から判断し、賃料減額を一部認容しました。改正民法における「使用不能による賃料減額制度」を理解する上でも重要な事例です。
事案の概要
借主が入居する賃貸住宅において、給水設備が故障し、一定期間にわたり浴室・台所などの給水ができない状態となりました。借主は、この間建物を通常どおり使用できなかったとして、民法(旧法)第611条に基づき、賃料の減額を求めました。
貸主は、故障は短期間であり、修繕も行ったことから「使用不能」とはいえないと主張しました。
判決の要旨
- 一部使用不能の判断基準:建物の一部が機能的に使用できない状態が、社会通念上、契約目的の達成を妨げる程度に至っているかを基準とする。
- 本件の具体的認定:浴室・台所の給水が不能であった期間は、居住の基本的機能が損なわれたといえるため、一部使用不能に該当すると判断。
- 賃料減額の範囲:減額割合は、使用不能部分の面積比ではなく、生活機能への影響度を基準として判断。裁判所は賃料の約20%を相当と認定。
- 貸主の過失の有無:故障原因の一部は老朽化によるものであり、貸主が早期修繕を怠った点に過失があるとされた。
位置づけと実務上のポイント
1. 「一部使用不能」の判断枠組み
建物の一部に欠陥が生じた場合でも、その機能が契約目的に照らして重要な部分であれば、「一部使用不能」として賃料減額が認められます。本判決は、単なる面積基準ではなく生活機能への影響を重視する実務的判断を示しました。
2. 改正民法との関係
2020年の改正民法(第611条)では、賃貸物の一部が使用できない場合、当然に賃料減額が生じると明文化されました。本件は旧法下の判例ですが、改正法の趣旨に通じる先駆的判断といえます。
3. 実務への示唆
- 貸主は設備故障を放置せず、速やかに修繕対応・代替手段の提供を行う。
- 借主は使用不能期間・範囲を明確に記録し、減額請求の根拠を残す。
- 管理会社はトラブル発生時の初期対応マニュアルを整備しておくとよい。
まとめ
東京地判平成25年5月16日判決は、給水設備の故障による一部使用不能を認め、生活機能への影響度に基づく賃料減額を認容した重要判例です。
改正民法後も適用される考え方であり、居住用賃貸物件の設備不良・老朽化対応における実務指針となります。
用語紹介
- 一部使用不能
- 賃貸物の一部機能が欠損し、契約目的の達成に支障をきたす状態。面積ではなく機能的観点から判断される。
- 賃料減額請求権
- 賃貸物の使用・収益が一部不能になった場合に、借主が減額を請求できる権利。改正民法611条に明記。
- 給水設備
- 住宅の基本的な生活機能を支える設備。給水停止や漏水は「一部使用不能」と判断されることがある。
- 生活機能への影響度
- 使用不能部分が生活全体に与える支障の大きさ。賃料減額割合を決める際の実務的な基準となる。