
はじめに
2026年4月1日から、不動産登記法の改正により、不動産の所有者は住所や氏名(法人の場合は名称)を変更したときに、変更登記を行うことが義務になります。施行まで残り約2か月となり、いまは「準備しておくと安心」ではなく、「今すぐ現状確認と着手をしておくべき」段階です。
賃貸経営の現場では、登記は日々の入退去と直接つながりにくい一方、名義情報のズレが原因で、売却・相続・融資・管理委託の場面で手続きが止まることがあります。今回の改正は、そうした「後で詰まる」要因を減らすための制度変更でもあります。
まずは、登記事項証明書(登記簿謄本)を手元に用意し、登記上の住所・氏名(名称)が最新かを確認しましょう。そこから必要なものだけ、優先順位を付けて処理するのが現実的です。
💡ポイント:施行日までに「現状把握」さえ済ませておけば、対応は格段に進めやすくなります。
不動産登記法改正の概要
今回の改正の中心は、所有者の住所・氏名(名称)の変更登記を「任意」から「義務」に切り替える点です。背景には、相続登記や住所変更登記がされないことで所有者が分からなくなり、公共工事や災害復旧が進みにくくなるなど、社会的な悪影響が増えていることがあります。
実務的には、2024年4月に開始した相続登記の義務化に続き、2026年4月から住所・氏名変更も義務化されます。不動産情報の正確性を求める国の姿勢が、より強まっていると捉えると理解しやすいでしょう。
何が義務化されたのか
改正後は、不動産の所有者(所有権の登記名義人)が、次の変更をした場合、原則として変更日から2年以内に変更登記を行う必要があります。
- 住所を変更した場合
- 氏名(法人の場合は名称)を変更した場合
対象は個人オーナーだけでなく、法人所有の不動産も含まれます。引っ越し、婚姻等による改姓、法人の本店移転や商号変更など、日常的に起こる変更がそのまま登記義務に直結します。
💡ポイント:住所や氏名の変更は、「役所の手続き」だけでなく「登記の手続き」までがワンセットになります。
手続きを軽くする「スマート変更登記」とは
今回の改正は義務化(いわば「ムチ」)だけではありません。手続きを楽にする仕組みとして、登記官が住民基本台帳ネットワークシステム等の情報に照会し、職権で住所等の変更登記を行う仕組み(通称「スマート変更登記」)も開始します。
特に個人の場合は、本人が一定の事前手続(申出)をすることで、以後は法務局側で変更登記を行う運用が用意されています。すべてを毎回、自分で申請しなければならないわけではありません。
ただし、職権による反映は「定期的な照会」に基づく運用で、売却や融資などで早急に登記を整える必要がある場合は、自分で変更登記を申請するほうが確実です。制度を使って負担を下げつつ、「急ぐ案件は手動で処理する」という発想が現実的です。
💡ポイント:義務化と同時に「負担軽減策」も始まります。先に仕組みを理解しておくと、心理的ハードルが下がります。
過去の住所・氏名変更はどうなるか
重要なのは、施行後に生じた変更だけでなく、施行前に行った住所・氏名(名称)変更も対象になる点です。たとえば、過去に引っ越しや本店移転をしているのに登記を更新していない場合でも、放置はできません。
施行前(2026年4月1日より前)の変更については、原則として2028年3月31日までに変更登記を行う必要があります。
💡ポイント:猶予はありますが、「そのうち」は危険です。複数物件を持つほど、後で一気に詰まります。
賃貸オーナー・管理会社への影響
この改正は、日々の賃貸管理業務を直接変えるものではありません。ただし、名義情報のズレがあると、次のような局面で手続きが止まりやすくなります。
- 物件売却や相続時に、登記情報と実態が食い違っている
- 金融機関や管理会社からの本人確認で追加資料が必要になる
- 複数物件を所有しており、名義管理が曖昧になっている
法人オーナーは「本店移転の盲点」に注意
法人の場合、商業登記(会社の登記)の住所変更は司法書士に依頼して早めに行う一方で、不動産登記側の住所変更が漏れているケースが少なくありません。会社(商業)登記を変えても、不動産登記は自動で変わらないと考えておくのが安全です。
特に、過去に本店移転をしている法人や、複数回移転している法人は要注意です。物件ごとに登記上の住所が古いまま残っていないか、棚卸しをおすすめします。
対応しない場合のリスク
正当な理由なく義務に違反した場合、5万円以下の過料が科される可能性があります。金額そのものよりも、「法令違反の状態が続く」ことが実務上のリスクになります。
売却・相続・法人再編・融資など、重要な局面ほど時間制約が厳しく、登記が古いことが原因で、追加の段取りや費用が発生しやすくなります。
💡ポイント:問題は過料よりも、「急いでいる時に登記がボトルネックになる」ことです。
実務で押さえる対応ポイント
施行までの限られた期間で、最初にやるべきことはシンプルです。まずは「現状確認」を終わらせます。
初手:登記事項証明書で、登記上の住所・氏名(名称)を確認する
- 対象物件ごとに、登記上の住所・氏名(名称)が最新か確認する
- 過去に引っ越し・改姓・本店移転・商号変更があった場合、未登記の変更がないかチェックする
- 管理委託契約書、本人確認書類(写し)などの保管情報と突き合わせる
登記事項証明書は法務局で取得できますが、オンラインで請求して取得する方法もあります。まずは「現住所になっているか」「社名・本店所在地が一致しているか」を確認し、ズレがあれば変更登記を検討しましょう。
運用:管理会社側は「オーナー情報更新時の確認」をルール化する
管理会社としては、オーナーの住所変更や法人の本店移転情報を受け取ったタイミングで、「登記も変更済みか」を一言確認するだけでも、将来のトラブルを減らせます。チェック項目を増やしすぎず、ルーティンに落とし込むのがコツです。
負担軽減:スマート変更登記の利用可否も確認する
個人オーナーの場合は、スマート変更登記(職権による住所等変更登記)を利用できるケースがあります。物件の売却予定があるなど、すぐに登記の整合が必要な事情がある場合は、手動の変更登記を優先しつつ、長期的な負担軽減策として検討するとよいでしょう。
まとめ
2026年4月1日施行の不動産登記法改正により、住所・氏名(名称)変更登記は「任意」から「義務」へと変わります。2024年の相続登記義務化に続き、不動産情報の正確性を求める流れが一段と強まりました。
施行まで残り約2か月です。まずは今のうちに、登記事項証明書(登記簿謄本)を手元に用意して現状を確認し、ズレがある物件から順に着手することをおすすめします。特に複数物件を持つオーナーは、この機会に一括してチェックしておくと、後々の手続きが楽になります。
引っ越しや社名変更は日常的な出来事ですが、これからは「役所の手続き」だけでなく「登記の手続き」までがワンセットの義務になります。先に動いておけば、施行後の混雑や手戻りにも巻き込まれにくくなります。
用語紹介
- 変更登記
- 不動産の所有者の住所や氏名(名称)に変更があった場合に行う登記手続きを指します。
- スマート変更登記
- 登記官が住民基本台帳ネットワークシステム等の情報に照会し、職権で住所等の変更登記を行う仕組みを指します。
- 過料
- 行政上の義務違反に対して科される金銭的制裁を指します。
- 相続登記の義務化
- 相続で不動産を取得した場合に一定期間内の相続登記申請が義務となる制度を指します。