
はじめに:共用灯をLED化したら「非常灯」だった
蛍光ランプは、水俣条約への対応として一般照明用のものが2027年末までに段階的に製造・輸出入が廃止される方針です。共用部の照明を計画的にLEDへ切り替える流れは、今後さらに強まります。
ただ、現場が詰まりやすいのが「共用灯のつもりで交換見積を取ったら、実は非常灯(建築基準法の非常用照明)だった」というケースです。一般的なLED照明(2〜3万円想定)と比べ、非常用照明器具は予備電源や要件対応が絡むため5万円以上になることも珍しくありません。結果として、オーナーが交換を渋り、工事が止まります。
本記事では、普通のLEDに置き換えてよいかを判断するための実務フローと、判断が難しいときの確認先(どこに聞くべきか)を管理会社・オーナー向けに整理します。
参考:蛍光ランプ廃止の概要(経済産業省)蛍光ランプの廃止について(特設)
まず整理:非常用照明と誘導灯は別物
「非常灯」と呼ばれがちな設備には、別の系統が混ざります。ここを混同すると、問い合わせ先も、交換の正解もズレます。
非常用照明(建築基準法側)
停電時に避難経路の明るさを確保するための設備で、建築基準法施行令に基づき一定の建物・経路で設置が求められます。対象の考え方は「対象となる居室」と「地上へ通ずる廊下・階段等(外気に直接開放された通路は除外)」がセットです。根拠としては建築基準法施行令の規定がベースになります。e-Gov:建築基準法施行令
誘導灯(消防法側)
避難口や避難方向を示す表示設備で、消防法体系で扱われます。見た目が似ていても目的が異なるため、更新判断を一括りにしないことが重要です。
ポイント:この記事は主に建築基準法側の「非常用照明」を中心に扱います。
普通のLEDに交換してよいか確認する手順
結論から言うと、「その場所に非常用照明が法的に必要」または「図面・点検上、非常用照明として管理されている」なら、普通のLED照明への置換は基本的に避けるのが安全です。必要設備を落とすと、後工程で二重コストになりやすいからです。
Step1:安易な交換をストップすべき5つの条件(現場一次判定)
次の項目に複数当てはまるなら、一般LED化はいったん保留し、器具と図面の確認に切り替えてください。
- 器具に充電表示(緑ランプなど)がある
- 点検ボタン(テスト)らしきスイッチがある
- バッテリー内蔵型に見える(重量感・器具形状)
- 分電盤の回路表記に「非常照明」「非常用照明」等がある
- 設置位置が階段・避難経路の廊下など、避難導線上にある
Step2:器具の“身元確認”(型式・銘板を写真で残す)
判断を進める最短ルートは、器具の銘板(型式・メーカー)を押さえることです。写真で残し、見積・照会に使える形にします。
ここで型式が分かると、「非常用照明器具として扱うべきか」「単なる共用灯か」の切り分けが速くなります。現場で迷ったときほど、まずは銘板の写真を確保してください。
Step3:図面と点検記録で「その場所が非常用照明として計画・管理されているか」を確定
行政が一般論で答えにくいのは、結局ここに戻るからです。次の資料で「その場所が非常用照明として扱われているか」を確定します。
- 確認申請図書・竣工図(電灯設備図):非常照明回路・配置がどう計画されているか
- 点検・検査記録:当該箇所が非常用照明として追跡管理されているか
- 消防設備点検記録:誘導灯側と混同していないか(切り分け)
なお、非常用照明は建築基準法第12条に基づく建築設備の定期検査の対象として実務上扱われます。交換判断を誤ると定期検査・報告で不備として扱われ、是正指導につながる可能性があります。参考:国交省:定期報告制度について
Step4:判定(置換OK/NG/保留)
- NG(普通のLEDにしてはいけない):図面上、非常用照明として計画されている/点検体系に組み込まれている/必要設備の可能性が高いのに根拠が取れない
- OK(一般灯化の可能性):「当該場所に非常用照明の要否がない」ことを、図面・記録・所管照会で確認できた
- 保留(まず照会):図面・記録が欠けていて確定できない
保留の状態で工事を走らせると、後日指摘が出たときに二重コストになりがちです。判断できないときは、先に「誰が判断するか」を特定して前に進める方が安全です。
照度基準(2ルクス)とLED化のポイント
非常用照明は「点けばよい」ではなく、床面での照度確保が求められます。国土交通省告示(建設省告示第1830号)では、常温下の床面水平面照度について、1ルクス(ただし蛍光灯またはLEDランプを用いる場合は2ルクス)以上を確保することができなければならない、と定めています。非常用の照明装置の構造方法を定める件(PDF)
この「2ルクス」は、LED化を進めるときの重要な論点です。LEDは配光や光束の設計次第で照度を取りやすくなる一方、「照度は足りているはず」という感覚判断は危険です。特に器具数を減らしたい場合は、図面・照度計算・現地測定など、根拠を揃えてから進めるとオーナー説明が通りやすくなります。
オーナーに伝えると納得されやすいポイント
- 非常用照明の価格差は「予備電源・要件対応・点検運用」のコストであり、単なる照明器具の差ではない
- LED化は長寿命化だけでなく、配光設計が合えば照度を確保しやすく、結果として合理化につながる可能性がある
- ただし器具数削減は「根拠(図面・測定・照度計算)」がないと説明が弱く、後の検査リスクも上がる
小規模アパート・外部開放廊下で迷うポイント
よくあるのが、地方都市の2階建て小規模アパートで「外部開放の廊下・階段だから、非常用照明は不要では?」と考えるケースです。実際、建築基準法施行令の枠組みでは、外気に直接開放された通路は対象から除かれるという整理が入ります。e-Gov:建築基準法施行令
ただし、ここで断定すると危険です。非常用照明の要否は、通路の開放性だけでなく、建物用途・階数・延べ面積など複数条件で決まります。さらに、過去の計画として非常用照明が組み込まれている場合、撤去・一般灯化は「更新」ではなく「整合取り」が必要になります。
大手ハウスメーカー施工物件で“共用灯が全部非常灯”になっている理由
大手ハウスメーカー施工物件で、共用灯が全数「非常用照明器具」になっているケースがあります。これを「過剰」と決めつけるのは早計です。設計側が安全側に振り、将来の用途変化や運用の一貫性を優先して統一していることがあります。
この場合、コストは上がりますが、点検・交換の運用がシンプルになる一方、一般灯へ戻すには図書・検査の整合を取り直す必要が出がちです。オーナーには「価格差の理由」と「判断に必要な根拠」をセットで説明すると納得が得られやすくなります。
どこに確認すべき?行政・確認検査機関の当たり方
「市区町村の建築課に聞いたが回答できないと言われた」というのは珍しくありません。理由は、一般論ではなく当該建物が確認・検査・維持管理上どう扱われているかが論点になるからです。図面を見ずに結論を出すと誤回答リスクが高く、行政は慎重になります。
優先順位:最短でたどり着く窓口
- 当時の建築確認を扱った窓口(指定確認検査機関または特定行政庁)
- 市で難しい場合は都道府県など広域の建築指導側(県政センター等)
- 誘導灯など消防法側の疑いがある場合は消防(切り分けて照会)
指定確認検査機関の情報は国土交通省の案内ページから確認できます。まず「この建物はどこが確認したか」を特定できると、たらい回しを避けられます。国交省:指定確認検査機関の案内
照会で“前に進む”ための添付情報(最低限)
- 建物概要(用途、階数、延べ面積、竣工年)
- 対象箇所(廊下・階段等)、外気に直接開放かどうか、写真
- 確認済証・検査済証、確認番号、確認機関名(分かる範囲で)
- 電灯設備図の該当ページ(非常照明の系統が分かる箇所)
- 器具の銘板写真(型式・メーカー)
聞き方のコツ:「結論ください」より「判断材料と判断者」
照会の成功率が上がる言い方は次の通りです。
- 「当該箇所が非常用照明の対象となる通路に該当するか、判断に必要な資料を教えてほしい」
- 「該当しない場合、現状“非常用照明として設置されている灯具”を一般照明へ置換してよいか、確認図書・検査の取り扱いも含めて相談したい」
緩和に関する告示(建設省告示第1411号)や、設置基準見直しの技術的助言は国土交通省が公表しています。実務では「該当性をどう固めるか」が重要です。建設省告示第1411号(PDF) / 設置基準見直し(技術的助言)
補足:法令のURLは改正等で変わる場合があります。公開前にリンクが最新かどうかを確認すると安心です。
Q&A:オーナー説明でよく出る質問
Q1. 共用灯が非常用照明かどうか、まず何を見ればいい?
最初は器具の銘板(型式)と、充電表示・点検ボタンの有無です。次に分電盤の回路表記、最後に竣工図(電灯設備図)と点検記録で確定します。写真で残すと、見積や照会が一気に進みます。
Q2. 高いので、普通のLEDに替えるのはダメ?
その場所に非常用照明が必要、または図面・点検上、非常用照明として管理されているなら避けた方が安全です。建築基準法第12条に基づく定期検査・報告で不備として扱われると、是正指導につながる可能性があります。参考:国交省:定期報告制度について
Q3. 外部開放の廊下・階段なら非常用照明はいらない?
外気に直接開放された通路は対象から除かれる整理があります。ただし、建物の用途・規模など他条件とセットで判断が必要です。断定せず、図面・記録で「当該箇所が非常用照明として計画されていない」ことを固めてから一般灯化を検討してください。
Q4. 2階建て・小規模アパートでも非常用照明が必要なことはある?
あり得ます。要否は用途・階数・延べ面積・居室条件などで決まります。現場で迷うときは、先に「当時の建築確認の窓口(指定確認検査機関等)」を特定し、図面を添えて照会する方が早いです。
Q5. LEDは10年持つイメージですが、非常用照明は交換頻度が高い?
器具の光源がLEDでも、非常用照明(または誘導灯)は内蔵の蓄電池(バッテリー)の劣化が先に来ます。メーカーFAQでは、蓄電池交換の目安を「使用開始後約4〜6年」としています。交換後のクレームを防ぐため、見積時点でバッテリー交換を含めた維持コストも説明するとスムーズです。パナソニック:蓄電池(バッテリー)交換目安
まとめ
共用部のLED化が進む中で、「共用灯の交換だと思ったら非常用照明だった」という問題は今後さらに増えます。費用差が大きいからこそ、感覚で決めずに根拠を揃えて判断することが重要です。
- まずは非常用照明(建築)と誘導灯(消防)を切り分ける
- 「安易な交換をストップすべき条件」に当てはまるなら、一般LED化を保留する
- 器具の型式(銘板写真)を押さえ、図面・点検記録で「非常用照明として計画・管理されているか」を確定する
- 照度基準(蛍光灯・LEDは2ルクス)を踏まえ、器具数削減などは根拠を揃えて検討する
- 判断が難しいときは、市区町村で止まらず当時の建築確認の窓口(指定確認検査機関等)→広域の建築指導の順に当たる
- LED化後もバッテリーは4〜6年で交換が必要になり得るため、維持コストも見積段階で共有する
次のアクションとしては、該当物件の「電灯設備図(非常照明のページ)」と「器具銘板写真」を揃え、照会先に送れる形にまとめるところから始めるとスムーズです。
参考(一次情報):e-Gov:建築基準法施行令 / 非常用の照明装置の構造方法を定める件(告示・PDF) / 国交省:定期報告制度 / 経産省:蛍光ランプの廃止
用語紹介
- 指定確認検査機関
- 建築基準法に基づき建築確認や検査を行う機関を指します。
- 特定行政庁
- 建築基準法に基づく建築行政を所管する都道府県・市町村等の行政庁を指します。
- 建築設備の定期検査
- 建築基準法第12条に基づき建築設備の状態を定期的に検査し報告する制度を指します。