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第一回:賃貸オーナーが知っておくべき遺言制度の基本|相続トラブルを防ぐ第一歩

Taro 2025年12月17日
目次

  • はじめに
  • なぜ今、賃貸オーナーに遺言が重要なのか
  • 日本の遺言制度の全体像
  • 不動産実務と遺言制度の関係
  • 自筆証書遺言と公正証書遺言の比較
  • まとめ
  • 用語紹介

はじめに

賃貸不動産を所有しているオーナーにとって、「相続」はいずれ必ず向き合うテーマです。しかし実務の現場では、「まだ先の話」「元気なうちは必要ない」と考えられ、遺言の準備が後回しにされるケースが少なくありません。

こうした状況を背景に、遺言制度そのものの在り方を見直す動きが進んでいます。令和5年12月、公益社団法人商事法務研究会は「遺言制度のデジタル化に関する調査研究報告書」を公表しました。この報告書では、現行の遺言制度が十分に活用されていない実態と、その要因、さらに将来的な制度設計の方向性が整理されています。

本記事は、この調査研究報告書の内容を踏まえつつ、賃貸オーナーおよび不動産管理担当者の視点から、日本の遺言制度を分かりやすく整理することを目的としています。あわせて、今後検討が進むデジタル遺言制度を理解するための土台を作ります。

まずは制度の全体像を把握し、将来の相続トラブルや賃貸経営への影響を未然に防ぐ視点を身につけていきましょう。

なぜ今、賃貸オーナーに遺言が重要なのか

賃貸不動産は、預貯金とは異なり分割が難しい資産です。建物や土地は簡単に分けることができず、相続人が複数いる場合には共有名義となるケースが多く見られます。

共有名義になると、売却、建替え、大規模修繕といった重要な判断において相続人全員の同意が必要になります。意見が一致しなければ意思決定が停滞し、賃貸経営に支障が生じることもあります。

遺言がない場合、相続は民法で定められた「法定相続分」に従って行われます。なお、法定相続とは、遺言がない場合に、民法で定められた相続人と相続割合に従って財産が承継される仕組みを指します。賃貸不動産も例外ではなく、相続人全員の共有状態となるケースが多く見られます。

商事法務研究会の調査研究報告書によれば、遺言制度について「検討したことがない」と回答した人は少なくありません。その理由としては、「手続きが煩雑そう」「どの制度を選べばよいか分からない」といった声が多く挙げられています。

制度が存在していても、内容が十分に理解されていなければ実務の場面では活用されません。賃貸オーナーにとって遺言は、単なる法的手続きではなく、将来の経営を見据えた重要な判断の一部と位置づける必要があります。


日本の遺言制度の全体像

日本の民法では、遺言の方式として複数の方法が定められています。実務で利用されることが多いのは、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。

自筆証書遺言の位置づけ

自筆証書遺言は、遺言者本人が全文を手書きして作成する方式です。費用をかけずに、思い立ったタイミングで作成できる点が特徴です。

一方で、形式に関する要件が厳格であり、日付や署名の記載漏れ、内容の不明確さが原因で無効と判断されるリスクがあります。実務上は、善意で作成した遺言が十分に機能しない事例も見受けられます。

公正証書遺言の位置づけ

公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成する方式です。法律の専門家が関与するため、形式不備による無効のリスクは極めて低くなります。

原本が公証役場で保管されることから、紛失や改ざんの心配が少ない点も大きな特徴です。ただし、作成には費用や事前準備が必要となり、心理的なハードルを感じるオーナーも少なくありません。

どちらの方式にもメリットと課題があり、資産内容や家族構成によって最適な選択は異なります。次回以降の記事では、それぞれの方式を実務目線で詳しく解説します。

不動産実務と遺言制度の関係

相続が発生すると、賃貸物件の管理や契約関係にも影響が及びます。家賃の振込先変更、修繕判断、管理委託契約の継続など、現場では迅速な意思決定が求められます。

遺言が整備されていれば、誰がオーナーとしての権限を持つのかが明確になり、管理会社としても対応がスムーズになります。

逆に遺言がない場合、相続人全員の合意確認が必要となり、実務が停滞するケースも少なくありません。遺言制度の理解は、現場の安定運営にも直結します。


自筆証書遺言と公正証書遺言の比較

項目 自筆証書遺言 公正証書遺言
作成方法 本人が全文を手書き 公証人が作成
費用 原則不要 数万円程度
形式不備リスク あり ほぼなし
検認手続 原則必要 不要
保管の安全性 本人管理(法務局保管制度あり) 公証役場で保管

ここでいう「検認」とは、家庭裁判所が遺言書の存在と内容を確認する手続を指します。自筆証書遺言の場合、遺言書の偽造や改ざんを防ぐ目的から、原則として相続開始後に検認が必要とされています。

一方、公正証書遺言は、公証人が作成し原本を公証役場で保管する仕組みのため、内容の真正性が担保されています。そのため、検認手続を経ることなく相続手続を進めることができます。

まとめ

遺言は、相続発生後のトラブルを防ぐための手段であると同時に、賃貸経営を安定して引き継ぐための重要な判断です。

本記事では、日本の遺言制度の全体像と、賃貸オーナーにとって遺言が持つ意味を整理しました。まずは制度を正しく理解することが、すべての出発点となります。

次回は、自筆証書遺言について、実務上の注意点や具体的な活用場面を詳しく解説します。将来の選択肢を広げるためにも、ぜひ引き続きご確認ください。

用語紹介

法定相続
遺言がない場合に、民法で定められた相続人と相続割合に従って財産が承継される仕組みです。
検認
家庭裁判所が遺言書の存在と内容を確認する手続を指します。

著者について

Taro

Administrator

首都圏在住。管理会社に勤務し、賃貸管理業に従事しています。 事業主側で不動産売買と収益物件の管理を経験し、その後、現在の管理会社に転身しました。 保有資格: 宅地建物取引士 賃貸不動産経営管理士

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