
はじめに
賃貸住宅の空室対策は、単に賃料を下げるだけでは解決しません。
実際には「現状診断→ターゲット設定→価格・条件→商品力(設備)→販売力(見せ方)→流通→運用改善」という一連のプロセスを設計し、数字で検証していく必要があります。
本ブロックでは、とくに基礎部分である現状診断・ターゲット設定・価格戦略をステップバイステップで整理し、初めてのオーナーでも再現できる実務フローを提示します。
現状診断(データで状況を可視化)
最短で成果を出すには、感覚ではなくデータで現状を把握することが出発点です。
まず、過去30〜90日のデータを「反響数(問い合わせ)」「内見数」「申込数」「成約数」「掲載日数(DOM)」「解約理由」に分解し、週次で推移をメモします。
これにより、どの段階で離脱しているか(反響不足・内見不足・申込率不足)が明確になり、打ち手の方向が定まります。
- 反響→内見:20〜30%が目安。届かない場合は、主に見せ方(写真・タイトル・タグ・初期費用)を改善。
- 内見→申込:15〜30%が目安。届かない場合は、物件状態・設備・条件のズレが疑われます。
- 申込→成約:60〜80%が目安。届かない場合は、審査フローや他物件への乗り換え要因の見直しが必要。
上記の数値は目安になります。実際の数値は地域により異なりますので、仲介会社などに相談してみましょう。
次に競合分析。半径1km、築年±5年、専有面積±10㎡の物件を5〜10件抽出し、「賃料」「初期費用」「主要設備」「写真の質」「立地・周辺環境」を横並びで比較します。
ここで重要なのは、賃料だけでなく初期費用の総額(敷金礼金・保証料・鍵交換費・清掃費)と写真品質の差です。多くのエリアで、反響に効くのは「写真の1枚目」「初期費用の見え方」「人気設備の有無」です。
ターゲット設定(誰に選ばれる物件にするか)
空室対策で失敗しがちなのは、ターゲットが曖昧なまま全方位にアピールしてしまうことです。
入居者像(ペルソナ)を1〜2タイプに絞り、訴求ポイントを具体化しましょう。
例:在宅ワークの単身者には「ネット無料・2口キッチン・コンセント位置・デスク可動域」、ファミリーには「収納・導線・学校区・周辺買物・週末の暮らしやすさ」、学生には「学校徒歩圏・自転車置場・ネット速度・家具配置例」、高齢者には「段差・手すり・明るさ・見守り」など。
物件の事実(南向き・角部屋・静音・採光・眺望)をベネフィットに言い換え(「朝から洗濯が乾きやすい」「在宅会議に雑音が入らない」など)、募集文の冒頭120字に落とすと反響率が上がります。
価格・初期費用戦略(相場と収益の最適解)
相場±3%で起点を置き、「7日/14日ルール」で微調整するのがシンプルで効果的です。
掲載7日で反響0なら−3%、14日で内見0なら−2%など、反応に合わせて機械的に動きましょう。
恒久値下げとフリーレント(FR)の比較は損益で判断します。式は「恒久値下げ額×平均在居月数 ≶ FR月数×現行賃料」。在居36ヶ月、値下げ3,000円なら108,000円。賃料75,000円でFR1ヶ月(75,000円)の方が軽い——このように数字で意思決定します。
同時に初期費用の圧縮(敷礼の調整、カード決済、分割可、保証会社活用、鍵交換費の見直し)を行うと、反響が増えやすくなります。初期費用の明確化は、検索ポータルでのクリック率(CTR)と問い合わせ率(CVR)に直結します。募集ページには「初期費用の概算内訳」を簡潔に掲載し、内見時には紙1枚で渡せるようにしておくと、安心感が高まります。
KPIとベンチマーク(改善の起点づくり)
空室対策は反復が命です。ダッシュボードに「反響→内見→申込→成約」の各数値と率、掲載順位、競合の賃料変動を記録し、週次で振り返りましょう。反響が弱いときは「写真・タイトル・価格・初期費用」。内見が伸びないときは「写真・導線・匂い・明るさ」。申込が弱いときは「条件・審査・AD・他物件優位点」の見直しがセオリー。
この原因→打ち手→計測のループを回すことが、入居率の安定化と収益改善につながります。