
はじめに
本記事は、賃貸オーナーや不動産管理担当者に向けた「遺言制度」シリーズ(全5回)の要点を、短時間で読めるように整理したライト(ダイジェスト)版です。
自筆証書遺言、公正証書遺言、そして将来検討されているデジタル遺言制度までを、実務目線で「結局どう選べばいいか」に絞ってまとめます。
まずは結論を押さえたうえで、必要な方は本編で詳細を確認してください。
まず結論:賃貸オーナーの現実的な選び方
(1)資産構成が比較的シンプルなら「自筆証書遺言+法務局の保管制度」
物件数が少なく、相続人関係も比較的整理されている場合には、自筆証書遺言を検討する余地があります。
ただし、自筆証書遺言は単体ではリスクが残るため、法務局の遺言書保管制度を併用することが強く推奨されます。
(2)複数物件・複数相続人なら「公正証書遺言」
賃貸不動産を複数所有している場合や、相続人が複数いる場合は、公正証書遺言が現実的です。
相続後の手続きを止めずに進められる点が、賃貸経営では大きなメリットになります。
(3)デジタル遺言は「将来の選択肢」
デジタル遺言制度は検討段階の制度であり、現時点では利用できません。
今は現行制度の中で備えつつ、将来の動向を把握しておく位置づけが現実的です。
なぜ賃貸オーナーに遺言が必要なのか
遺言がない場合、賃貸不動産は相続人全員の共有名義になるケースが多く見られます。
共有名義になると、売却や建替え、借入の見直しなどの重要な経営判断で、関係者全員の同意が必要になります。
その結果、意思決定が進まず、賃貸経営が停滞するリスクが高まります。
遺言は相続トラブルの予防策であると同時に、賃貸経営を円滑に引き継ぐための経営設計でもあります。
3分で整理|遺言方式の違い
主な遺言方式を、実務上の評価軸で簡潔に整理すると次のとおりです。
| 方式 | 主な特徴 | メリット | デメリット/リスク | 実務上の評価 |
|---|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 本人が手書きで作成 | 安価・手軽 | 形式不備、原則検認が必要 | 保管制度とセットで推奨 |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成 | 確実性が高く検認不要 | 費用、準備の手間 | 複雑なケースで最適 |
このように見ると、「安さ・手軽さ」を取るか、「確実性・安心感」を取るかで、選ぶ方式が変わることが分かります。
いま取るべき行動チェックリスト
- 所有不動産と金融資産を一覧化する
- 相続人になり得る人を整理する
- 判断軸(確実性/費用/手間)を決める
- 方式を仮決めする
- 必要に応じて専門家に相談する
まとめ
賃貸オーナーにとって遺言は、相続対策であると同時に、経営を安定して引き継ぐための実務ツールです。
シンプルなケースでは「自筆証書遺言+法務局保管制度」、複雑なケースでは「公正証書遺言」を軸に考えることが現実的です。
用語紹介
- 法務局の遺言書保管制度
- 自筆証書遺言を法務局で保管し、紛失や改ざんを防ぐ制度です。
- 検認
- 家庭裁判所が遺言書の存在と内容を確認する手続を指します。
- 共有名義
- 一つの不動産を複数人の名義で所有すること。遺言がない場合に発生しやすい状態です。