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賃貸契約書と特約のチェックポイント:原状回復トラブルを防ぐ契約実務

Taro 2025年12月24日 1 minute read
目次

  • はじめに
  • 契約書に書いてあれば、すべて有効になるわけではない
  • 原状回復の基本条項を正しく理解する
  • 特約とは何か
  • 特約が有効と判断される3つのハードル
  • 説明した事実を形に残す具体策
  • ハウスクリーニング特約の注意点
  • 契約時に必ず伝えるべきポイント
  • まとめ
  • 用語紹介

はじめに

原状回復をめぐるトラブルの多くは、退去時に突然発生するように見えます。しかし実務を振り返ると、問題の芽はすでに「契約時」に生まれているケースがほとんどです。

「契約書に書いてあるから安心」という思い込みこそが、実は一番のリスクかもしれません。

第1回では、原状回復が「入居時の状態に戻すことではない」こと、そして通常損耗と借主負担の線引きがあることを確認しました。第2回では、その考え方を賃貸契約書と特約にどう落とし込むべきかを、オーナー・管理会社の実務目線で整理します。

参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、国交省ページからPDFを確認できます。国土交通省 公式ページ

契約書に書いてあれば、すべて有効になるわけではない

まず、契約実務で必ず押さえておきたい前提があります。賃貸借契約書に記載されているからといって、その内容が自動的に有効になるわけではありません。

特に原状回復に関する条項は、借主に不利になりやすく、抽象的な表現になりやすい領域です。そのため、トラブル時には「書いてあるかどうか」だけでなく、どのような内容で、どのように合意されたかが問われます。

契約書は、権利を強く主張するための道具ではなく、将来のトラブルを防ぐための「設計図」です。最初の段階で曖昧さを減らすほど、退去時の説明がスムーズになります。


原状回復の基本条項を正しく理解する

多くの賃貸借契約書には、次のような基本条項が記載されています。

  • 「退去時には原状回復のうえ明け渡す」
  • 「借主は善管注意義務をもって使用する」

これらは法律上の原則を確認するための条項です。ただし、この文言だけで「借主がすべての修繕費を負担する」ことを意味するわけではありません。

原状回復の基本は、通常損耗や経年劣化を除いた「通常の使用を超える損耗」を回復することです。契約書全体として、その前提がブレないように整えることが、後のトラブル予防につながります。

基本はこの範囲ですが、ここからはみ出す負担を定める場合は、次に説明する「特約」として、より慎重な合意が必要になります。

特約とは何か

原状回復トラブルの焦点になりやすいのが特約です。特約とは、法律や一般的なルールとは異なる内容を、当事者間の合意によって定める条項を指します。

原状回復に関する特約の代表例は次のとおりです。

  • 退去時のハウスクリーニング費用を借主負担とする
  • クロスの張り替え費用を借主負担とする
  • 畳表替え費用を借主負担とする

これらは内容と手続き次第では有効と判断されます。ただし、「特約がある=有効」ではありません。次章の「3つのハードル」を意識して設計することが重要です。


特約が有効と判断される3つのハードル

裁判例(最高裁平成17年判決など)やガイドラインの考え方では、原状回復特約について、次の3点が特に重視されます。とくに「客観的・一義的な明確性」は、実務で強く意識しておきたい視点です。

チェックリスト:特約の有効性を左右する3つの視点

  • 内容の具体性(客観的・一義的な明確性):負担する内容・範囲・条件が曖昧でなく、第三者が読んでも同じ理解になるか
  • 必要性・合理性:金額や範囲が社会通念上妥当で、暴利や過剰な負担になっていないか
  • 意思表示の明確性:借主が「本来は負担しなくてよいものを、あえて負担する」と認識して合意しているか

比較表:特約を「強くする」より「明確にする」

特約は強い言葉で書くほど有利になるわけではありません。むしろ、曖昧さや過剰さがあると、トラブル時に不利になり得ます。

書き方の傾向 例 リスク
抽象的・包括的 「退去時の原状回復費用はすべて借主負担」 範囲が不明確で争点化しやすい
具体的・限定的 「退去時クリーニング費用として○○円(税別)を負担する」 説明・合意が取れていれば運用しやすい

この3つのハードルをすべてクリアして初めて、特約として有効と評価されやすくなります。逆に言えば、どれか一つでも欠けると、合意があっても揉めやすいのが原状回復特約です。

説明した事実を形に残す具体策

特約トラブルで最も多いのが、「説明した」「聞いていない」という平行線です。ここを防ぐためには、説明した事実を“形”に残す工夫が欠かせません。

チェックリスト:合意プロセスを可視化する方法

  • 重要事項説明書に、特約の趣旨を明記する
  • 特約条項のすぐ横に、借主のイニシャルや印影をもらう
  • 特約部分のみを枠で囲い、視覚的に目立たせる
  • 契約時に図解資料(ベン図など)を提示し、「ここが特約部分です」と指差し確認する
  • 説明日・説明者を社内記録として残す(チェックシートで運用すると安定する)

これらは借主を疑うための手続きではありません。後から双方が困らないための、安全装置として機能します。説明と合意を丁寧に扱うほど、退去時の話し合いが短く、穏やかになりやすい傾向があります。


ハウスクリーニング特約の注意点

ハウスクリーニング特約は、実務で多用される一方、揉めやすい特約でもあります。ポイントは「特約があるから請求できる」ではなく、合理的で、説明可能かという視点です。

  • 金額が相場から大きく外れていないか
  • 通常使用後の清掃として合理的な範囲か
  • 通常損耗まで一律に含めていないか
  • 契約時に、金額・趣旨・範囲を具体的に説明しているか

特約は「透明性」が高いほど強くなります。金額や範囲を明確にし、合意プロセスを残すことで、後からの不信感を抑えやすくなります。

契約時に必ず伝えるべきポイント

原状回復トラブルを防ぐため、契約時には次の点を意識すると効果的です。

  • 原状回復は「新品に戻す」ことではない
  • 通常損耗と借主負担の線引きがある
  • 特約がある場合は、その理由と範囲を具体的に説明する
  • 退去時には状態確認を行い、費用算定の根拠を示す

専門用語を並べるより、具体例と図解で「何が借主負担で、何が貸主負担か」を共有するほうが、理解が進みやすくなります。とくに特約は、内容そのものよりも「説明の丁寧さ」が信頼を左右します。


まとめ

契約書と特約は、貸主の権利を一方的に主張するためのものではありません。将来のトラブルを防ぐための「設計図」として機能させることが重要です。

特に原状回復特約は、次の「3つのハードル」を意識して整備してください。

  • 内容の具体性(客観的・一義的な明確性)
  • 必要性・合理性
  • 意思表示の明確性

加えて、説明した事実を形に残しておくと、退去時の話し合いがスムーズになりやすくなります。まずは手元の契約書を見直し、特約がある場合は「金額・範囲・説明の記録」が整っているか確認してみてください。

次回は、入居時・退去時のチェックと記録方法を取り上げます。契約書で整理したルールを、現場でブレなく運用するための「記録の作り方」を、具体的な手順で解説します。

用語紹介

特約
法律や一般ルールとは異なる内容を当事者の合意で定める条項です。
客観的・一義的な明確性
第三者が読んでも同じ意味に理解できるほど内容が明確である状態を指します。
意思表示
当事者が内容を理解したうえで同意するという意思を外部に示すことです。

著者について

Taro

Administrator

首都圏在住。管理会社に勤務し、賃貸管理業に従事しています。 事業主側で不動産売買と収益物件の管理を経験し、その後、現在の管理会社に転身しました。 保有資格: 宅地建物取引士 賃貸不動産経営管理士

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