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原状回復のQ&A:修使用状況・損耗・毀損に関する実務対応

Taro 2026年1月10日 1 分読み取り

目次

  1. 概要
  2. なぜ重要か
  3. Q28.「家具の設置跡や床のへこみは、通常損耗として借主負担にならないのでは?」
  4. Q29.「キャスター付き椅子や家具で床が傷ついた場合も、通常損耗になりますか?」
  5. Q30.「結露や水滴が原因のカビ・腐食も、通常損耗ではないのですか?」
  6. Q31.「室内でタバコを吸っていただけなのに、ヤニ汚れや臭いの費用まで請求されるのは不当では?」
  7. Q32.「ペットを飼っていただけですが、傷や臭いまで借主負担になるのですか?」
  8. Q33.「排水口の詰まりや悪臭は、経年劣化ではないのですか?」
  9. Q34.「換気扇やレンジフードの油汚れは、経年劣化として借主負担にならないのでは?」
  10. Q35.「浴室の水垢や鏡のウロコ汚れも、経年劣化として借主負担にはならないのでは?」
  11. Q36.「エアコン内部の汚れやカビ、分解洗浄費用まで借主負担になるのですか?」
  12. Q37.「小さなキズや汚れでも、原状回復費用を請求されるのですか?」
  13. まとめ
  14. 用語紹介

概要

「通常損耗か、借主負担か」は、汚れや傷の“有無”ではなく、原因(回避可能性)と程度(募集への支障)で分岐します。本カテゴリーでは、現場で反論が出やすい典型論点を、説明の組み立て(論点の切り分け方)として整理しています。

なぜ重要か

使用態様に関する争点は、借主側が「生活していれば当然」「古いから仕方ない」と捉えやすく、話が感情に流れがちです。ここで判断軸を「自然現象」か「管理不足」か、「部分補修で足りる」か「募集に支障がある」かに戻せるかが、精算の納得感と回収可能性を左右します。

Q&A(修使用状況・損耗・毀損)

Q28.「家具の設置跡や床のへこみは、通常損耗として借主負担にならないのでは?」

【考え方の軸:通常の生活に伴う「静止荷重」か、不注意や対策不足による「動的・異常な毀損」かを切り分ける】

この論点で重要なのは、「家具の跡がある=すべて通常損耗」とは限らないという点です。居住のための家具設置は当然に予定された行為ですが、その結果生じた損傷が、借主の善管注意義務(借りている物を適切に管理する義務)の範囲内か、それを逸脱した管理不足によるものかで、負担区分は大きく変わります。

  • 通常損耗(貸主負担)と判断されやすいケース
    冷蔵庫、食器棚、ベッドなど、生活に不可欠な重量家具を通常の方法で設置した結果として生じた、床材(クッションフロア等)のごく自然な沈み込みや軽微な設置跡は、通常損耗に該当します。これは「建物を使用して生活する以上、避けられない変化」と評価され、原則として貸主負担で整理されます。
  • 過失・管理不足(借主負担)と判断されやすいケース
    一方、以下のような状況では、「通常の使用」を超えた損耗として、借主負担となる可能性が高まります。
    • キャスター付き家具の常用:椅子や収納家具を保護マットなしで使用し、床表面に擦れ・剥離・深い傷が生じた場合。
    • 異常な重量物の設置:大型水槽、ピアノ、業務用機材などを、荷重分散対策(板を敷く等)を行わず設置し、床材が著しく変形・破損した場合。
    • 放置による被害拡大:家具下の結露や軽微な沈み込みを認識しながら対策を取らず、カビや腐食が床下地まで進行した場合。
  • 実務上の最終判断は「再募集への支障」
    実務での判断軸は、跡があるかどうかではなく、「補修を行わなければ次の入居者募集に支障が出るか」という点です。目視ではほとんど分からない程度のへこみであれば通常損耗に留まりますが、床表面の剥離や、踏むと違和感があるほどの変形がある場合は、毀損(壊した状態)として補修の必要性が認められ、減価償却を考慮したうえで借主負担を求める合理性が生じます。

実務上の説明では、「家具を置く行為自体は問題ありませんが、今回のケースではキャスターによる表面の剥がれ(または深さのあるへこみ)が確認され、通常の生活範囲を超えた損傷と判断しています」と、損傷の程度と性質を具体的に示すことが重要です。ガイドラインの考え方に照らし、なぜ本件が「通常損耗に当たらないのか」を冷静に説明することで、感情論を避けた合意形成につながります。


Q29.「キャスター付き椅子や家具で床が傷ついた場合も、通常損耗になりますか?」

【考え方の軸:キャスターの使用は「動的な摩擦」を伴う行為。床材の保護措置を怠ったことによる損傷は、善管注意義務違反に該当し得る】

この論点で整理すべきなのは、キャスター付き家具の使用は「設置」ではなく、「繰り返し負荷を与える動作」であるという点です。床材に対して一点集中の荷重移動を継続的に与える行為は、単なる家具設置とは性質が異なり、借主側の管理責任がより厳しく問われます。

  • 通常損耗と評価されにくい「特異な摩耗」
    キャスター(特に硬質素材のもの)は、体重がかかった状態で床面を繰り返し摩擦します。その結果生じる表面の剥離、毛羽立ち、塗装の摩耗は、居住用の床材が本来想定している摩耗の範囲を超えるダメージと判断される傾向があります。特にクッションフロアやフローリングは、キャスターの直接使用を前提とした強度設計がなされていないケースが多く、注意が必要です。
  • 判断の分岐点:回避するための「配慮・対策」があったか
    実務上、借主負担と判断する際の主な着眼点は以下の通りです。
    • 保護マットの不使用:専用マットやカーペットを敷くなど、容易に講じ得た対策を怠っていた。
    • 損傷の累積:傷が発生し始めた後も使用を継続し、対策を講じないまま損傷を拡大させていた。
    • 下地の露出:単なる擦れではなく、床材が削れ、下地が見えるほどの損傷に至っている。
  • 公平な精算:修繕の「必要性」と「減価償却」の適用
    表面の剥がれや著しい変色は、次の募集において美観を損なう明確な支障となるため、修繕の必要性が認められます。ただし、この場合もクロス等と同様に、床材の経過年数を考慮した負担割合(例:6年で10%など)で算定することが、請求の正当性を支える重要な前提となります。

実務上の説明では、「キャスター付きの椅子は床を傷めやすいため、一般的に保護マット等での対策が期待されます。今回はその対策がないまま継続使用され、表面の剥離が生じているため、通常損耗の範囲を超える損害として整理しております」と伝えるのが有効です。「家具を使う自由」と「建物を適切に管理する義務」のバランスを丁寧に説明することが、合意形成への近道となります。


Q30.「結露や水滴が原因のカビ・腐食も、通常損耗ではないのですか?」

【考え方の軸:結露自体は自然現象であっても、「放置」によるカビ・腐食の進行は善管注意義務違反に該当する】

この論点で重要なのは、「結露の発生」と「被害の拡大」を切り分けて考えることです。結露は建物の構造や気候条件によって避けられない側面がありますが、それを拭き取る、換気するといった適切な対応を怠り、建材に修復困難なダメージを与えた場合は、借主の管理責任が問われます。

  • 通常損耗(貸主負担)とみなされる境界線
    窓ガラスやサッシ枠に一時的に付着する水滴や、それによる軽微な跡など、日常的な清掃の範囲で除去できるレベルのものは通常損耗です。これは「建物を使用して生活する以上、完全に防ぐことは困難な現象」として、貸主の負担範囲と整理されます。
  • 善管注意義務違反(借主負担)とみなされる境界線
    ガイドライン実務においても、以下のようなケースは借主の「通知義務」や「善管注意義務」を怠ったものとして、修繕費の負担が認められやすくなります。
    • 拭き取りの欠如:結露を長期間放置した結果、壁紙の裏までカビが浸透し、下地ボードを腐食させた。
    • 報告の怠慢:異常な結露が発生していることを認識しながら、管理会社へ連絡せず被害を拡大させた。
    • 生活習慣による助長:冬季に窓を閉め切ったまま過度に加湿し、十分な換気を行わなかった。
  • 実務的な「修繕範囲」と「公平な精算」
    カビによる変色や木部の腐食は、通常清掃では回復せず、クロスの貼り替えや部材交換が必要となります。この際、「結露が発生しやすい構造」という貸主側要因も考慮したうえで、経過年数に応じた減価償却を適用することで、実務上バランスの取れた精算が可能になります。

実務上の説明では、「結露が発生したこと自体を問題にしているのではありません。拭き取りや換気といった必要な手入れが行われず、その結果としてクロスや下地が傷んでしまった点について、ご負担をお願いしています」と伝えます。「自然現象への対処義務」に論点を集中させることで、借主の感情的反発を抑え、合理的な合意を得やすくなります。


Q31.「室内でタバコを吸っていただけなのに、ヤニ汚れや臭いの費用まで請求されるのは不当では?」

【考え方の軸:喫煙による汚損は「通常の使用」の範囲を超えると判断されるのが一般的。修繕の目的は「非喫煙者が支障なく住める状態」への回復にある】

この論点で最初に整理すべきなのは、喫煙行為そのものの是非ではなく、退去後に残る「物理的な変色」と「残留する臭気」が、次の募集において実質的な支障となるかという点です。管理実務では、近年の健康意識の高まりや賃貸市場の動向を踏まえ、喫煙によるヤニ汚れや臭いを通常損耗として扱うことは、現実的に難しくなっています。

  • 「通常損耗」と認められにくい法的・実務的背景
    判例や国土交通省ガイドラインの考え方においても、喫煙による汚れや臭いは、借主の嗜好による選択的行為の結果と整理されやすく、清掃で回復できないレベルに達している場合は借主負担とする判断が積み重なっています。
    • 禁煙特約の有無:特約がある場合はもちろん、特約がなくても「善管注意義務(借りた物件を適切に管理する義務)」違反と評価される余地があります。
    • 影響範囲の広さ:煙は局所的に留まらず、壁・天井・エアコン内部・建具の隙間などに広がり、被害が面的・立体的に及ぶ点が特徴です。
  • 判断基準は「主観」ではなく「客観的事実」
    借主が「自分は気にならない」と感じていても、実務では次のような客観的要素を基準に判断します。
    • 視覚的確認:家具撤去後の壁紙の色ムラ、スイッチ周辺の黄ばみ。
    • 嗅覚的確認:第三者が入室した際に明確に認識できるタバコ臭の残留。
    • 拭き取りテスト:清掃時に雑巾が茶色く染まり、表面の均一性が失われている状態。
  • 公平な算定:工事の必要性と負担割合の切り分け
    臭気や変色が深刻な場合、部分補修では足りず、室単位での貼り替えや消臭作業が必要になることがあります。
    • クロス貼り替え:施工範囲は一室単位となっても、費用は経過年数(6年で1円)を考慮し、借主負担は残存価値分に限定します。
    • 特別清掃・消臭:臭気除去のための洗浄・消臭作業は、減価償却になじまない「作業実費」として、原因者負担と整理するのが一般的です。

実務上の説明では、「喫煙そのものを否定しているのではなく、現在の状態では非喫煙者の方を募集することが難しいため、必要な原状回復を行っています。工事は最小限に抑えていますが、発生した費用についてはルールに基づきご負担をお願いしています」と伝えるのが有効です。「時代背景」と「次の入居者への責任」を軸に説明することで、感情論を避けた合意形成につながります。


Q32.「ペットを飼っていただけですが、傷や臭いまで借主負担になるのですか?」

【考え方の軸:ペット飼育は「通常損耗」に含まれない特別な使用態様。飼育の許可は、汚損の容認を意味しない】

この論点でまず整理すべきなのは、ペット可物件であっても、原状回復の考え方が借主有利に切り替わるわけではないという点です。ペットによる影響は、居住のための通常の使用で生じる損耗とは切り離され、実務上は「特別の損耗」として扱われるのが一般的です。

  • 「ペット可」の真意と善管注意義務
    ペット可とは、あくまで「契約違反(無断飼育)にならない」という意味にとどまります。爪とぎによる傷、体臭、排泄物の染み込みまで貸主が負担する趣旨ではありません。むしろペットを飼育する以上、汚れや傷が生じないよう配慮・管理する、より高度な善管注意義務が借主に求められます。
  • 判断のポイント:「次順位の入居者」への影響度
    実務では、次のような状態が確認される場合、通常損耗ではなく「特別損耗」として整理されます。
    • 物理的損傷:柱、建具、巾木などに残る噛み跡や引っかき傷。自然に発生するものではなく、明確な毀損と評価されます。
    • 衛生的・嗅覚的影響:通常清掃では除去できない排泄臭や、アレルギー要因となり得る毛・フケの残留。
  • 「残存価値」と「作業実費」を分けて考える精算
    ペット由来の汚損であっても、費用算定には客観的な合理性が必要です。
    • 内装材(クロス等):耐用年数に基づく減価償却を適用し、借主負担は残存価値分に限定します。
    • 消臭・消毒作業:オゾン脱臭や特殊洗浄など、臭気除去のために不可欠な作業は、経過年数にかかわらず原因者が負担すべき実費として整理するのが実務上の考え方です。

実務上の説明では、「ペット可という条件は飼育を承認するものであり、退去時の回復責任を免除するものではありません。次の方がペットを飼わない可能性も踏まえ、衛生的に問題のない状態へ戻す必要があります」と伝えるのが有効です。「次の方への責任」という第三者視点を示すことで、請求の正当性を理解してもらいやすくなります。


Q33.「排水口の詰まりや悪臭は、経年劣化ではないのですか?」

【考え方の軸:設備の老朽化と、日常のケア不足・異物流入による不具合を分離する。原因が生活行為にある場合は、善管注意義務違反として整理する】

この論点で重要なのは、「排水管そのものの劣化」と「日々の清掃・使用方法に起因するトラブル」を切り分けて考えることです。水回りは経年劣化の影響を受けやすい一方で、借主には排水口のゴミ受け清掃などの日常的な管理(善管注意義務)が求められます。これを怠った結果として発生した不具合は、通常損耗とは評価されません。

  • 通常損耗(貸主負担)の範囲
    長年の使用による配管内部の摩耗や錆、地盤沈下などに伴う勾配変化といった、建物や設備の構造・寿命に起因する流れの悪さは、原則として貸主負担となります。これは「普通に住んでいても避けられない設備の劣化」として整理される領域です。
  • 借主負担(管理不足・過失)の範囲
    原状回復ガイドラインの実務では、以下のような日常的な注意で回避できた不具合については、借主の管理不足として費用負担を求めることが合理的とされています。
    • 油脂類の蓄積:キッチンで油をそのまま流し、配管内で冷え固まってラード状の塊を形成させたケース。
    • ゴミ・異物の放置:浴室の髪の毛や食品カスをゴミ受けで受け止めず、あるいはゴミ受けを外したまま使用し、配管奥で詰まらせたケース。
    • 悪臭の放置:排水トラップの清掃を長期間行わず、ぬめりやカビが繁殖し、室内に強い悪臭が発生したケース。
  • 実務的な「証拠」の重要性
    借主から「経年劣化ではないか」と反論を受けた場合、実務では専門業者による調査結果を根拠として提示します。
    • 高圧洗浄時の回収物:油の塊や髪の毛など、「実際に詰まっていた物」の写真・記録。
    • ファイバースコープ調査:配管内部に固着した油汚れや異物を映した映像・画像。
    こうした客観的な証拠があれば、「設備の老朽化」という抽象的な主張を退け、生活行為に起因する個別の不具合として費用請求を行う正当性が明確になります。

実務上の説明では、「設備の経年劣化が原因であれば貸主負担となりますが、今回は油脂や髪の毛の蓄積が原因と業者から報告を受けています。日常のお手入れで防げた内容と判断されるため、改善に要した実費についてご負担をお願いしております」と伝えるのが有効です。「防げたトラブルかどうか」を判断軸として示すことで、借主の納得感を得やすくなります。


Q34.「換気扇やレンジフードの油汚れは、経年劣化として借主負担にならないのでは?」

【考え方の軸:設備の使用には「日常の清掃義務」が付随する。放置され固着した油汚れは、経年劣化ではなく善管注意義務違反と判断される】

この論点で整理すべきなのは、換気扇やレンジフードは「使えば汚れる設備」であると同時に、「清掃を前提として使用される設備」であるという点です。日常的な手入れで防げたはずの油汚れが、長期間の放置によって建材や設備を傷めるレベルにまで進行した場合、それは経年劣化の範疇を超えた損耗として扱われます。

  • 通常損耗(貸主負担)と評価される範囲
    フィルター表面の軽度な油膜や、通常のハウスクリーニングで除去可能な程度の汚れは、居住に伴う自然な損耗として貸主負担となります。これは「調理という日常生活において避けられない変化」として、合理的に想定される範囲です。
  • 善管注意義務違反(借主負担)と判断される境界線
    ガイドライン実務では、次のような状態は「適切な管理を怠った結果」と評価されます。
    • 樹脂化・固化した油:長期間清掃されず、油が化学変化を起こし、通常の洗剤や清掃では除去できない状態。
    • 換気機能の低下:ファンに油が付着し続けた結果、モーターに過剰な負荷がかかり、異音や性能低下を招いている場合。
    • 周辺への波及:油煙がキッチン周辺のクロスにまで染み込み、拭き掃除では回復できない黄ばみや臭い(二次被害)が発生している場合。
  • 実務での費用整理:特別清掃か、部材交換か
    油汚れは本来「清掃」で回復すべき性質のため、実務では通常清掃とは別枠の特別清掃(分解洗浄)費用として整理されるケースが一般的です。ただし、油の酸化により塗装が剥離している、部材が腐食しているなど、清掃での回復が不可能な場合には、経過年数を考慮した上で部材補修費や交換費用を按分請求する合理性があります。

実務上の説明では、「設備が古くなったこと自体を問題にしているわけではありません。油汚れを長期間放置した結果、通常の清掃では回復できない状態になっている点についてご負担をお願いしています」と伝えるのが有効です。『時間の経過』と『管理の不備』を切り分けて説明することで、「古いから仕方ない」という反論にも、論理的に対応できます。


Q35.「浴室の水垢や鏡のウロコ汚れも、経年劣化として借主負担にはならないのでは?」

【考え方の軸:浴室は「水を使う場所」だからこそ、高い清掃・管理義務が前提となる。放置による結晶化・固着は通常損耗には当たらない】

この論点で重要なのは、浴室の汚れは「時間の経過」そのものではなく、「水滴や汚れを放置した結果として蓄積する」という点です。水道水に含まれるミネラル分が乾燥・結晶化したウロコ汚れや、石鹸カスが化学変化を起こして固化した金属石鹸は、日常的な拭き取りや清掃を怠った結果であり、善管注意義務違反として整理されます。

  • 通常損耗(貸主負担)と評価される範囲
    使用に伴う軽微な水跡や、通常のハウスクリーニングで容易に除去できるレベルのくすみ、目立たない薄い石鹸カスなどは、通常損耗に該当します。これらは、次の方を募集する際に行う「標準的な清掃工程」で回復できる範囲を指します。
  • 善管注意義務違反(借主負担)と判断される境界線
    実務上、次のような「素材そのものに影響を与える変化」が生じている場合は、借主の管理不足による損耗と判断されます。
    • 鏡の重度なウロコ汚れ:結晶が層状に蓄積し、専用の研磨作業を行わなければ視認性を回復できない状態。
    • 水栓・カウンターの石灰化:水垢が硬質化し、表面に凹凸を生じさせるほど固着している状態。
    • 根深いカビの浸透:シリコン目地やパッキン部分のカビを放置した結果、色素が素材内部まで浸透し、薬品洗浄でも除去できない状態。
  • 実務的な費用整理:研磨・薬品洗浄による「特別工賃」
    これらは単なる汚れではなく「固着・変質」であるため、通常の清掃費用には含まれません。
    • 特別清掃費:酸性薬剤による除去作業や、鏡のダイヤモンド研磨など、専門的処置に要した工賃を特別清掃費として算出します。
    • 交換費用の按分:研磨後も傷や変色が残る場合、あるいは部材交換が必要な場合は、耐用年数を考慮した残存価値分のみを借主負担として整理します。

実務上の説明では、「浴室を使用したこと自体を問題にしているのではありません。水滴の拭き取りや換気・清掃が行われず、汚れが素材に定着してしまった点についてご負担をお願いしています」と伝えるのが有効です。「防げたはずのメンテナンスが行われなかった」という事実に軸足を置くことで、感情論を避けた説明が可能になります。


Q36.「エアコン内部の汚れやカビ、分解洗浄費用まで借主負担になるのですか?」

【考え方の軸:構造上の結露は避けられないが、その後の「ケア」を怠った結果として定着した重度の汚損は、借主負担となる】

エアコン、特に冷房使用時は構造上、熱交換器を冷やして空気中の水分を結露させることで除湿・冷却を行うため、内部が湿るのは自然現象です。しかし、その水分を放置してカビを増殖させるか、適切に乾燥・清掃するかという「使用後の管理状況」によって、原状回復時の負担区分は明確に分かれます。

  • 通常損耗(貸主負担)と評価される範囲
    冷房使用に伴う一時的な結露や、通常のハウスクリーニングで除去可能な軽微なカビ、フィルター表面のホコリなどは通常損耗です。これらは「エアコンの仕組み上、普通に使用していれば避けられない変化」であり、次の方を募集するための標準的な清掃工程に含まれる範囲と整理されます。
  • 善管注意義務違反(借主負担)と判断される境界線
    一方で、以下のような「借主側のケアによって防げたはずの状態」が確認される場合は、分解洗浄等の実費精算が問題となります。
    • 内部乾燥(送風運転)の不実施:冷房停止後の乾燥運転を行わず、常に内部が湿った状態となった結果、送風口から内部奥まで黒カビが広範囲に定着している。
    • フィルター清掃の放置:フィルターの目詰まりにより吸気効率が低下し、内部結露が過剰に発生。結果としてカビの繁殖を加速させた場合。これは「清掃不足による被害拡大」と評価されます。
    • 特異な使用環境:室内喫煙や換気不足の調理により、ヤニや油分が結露水と混ざり、強い臭気や粘着質の汚れとして内部に固着したケース。
  • 実務での費用整理:分解洗浄は「部材保護・機能維持」のための修繕実費
    エアコンの分解洗浄は、単なる美観回復ではなく、ドレンパンの詰まりによる水漏れ防止や、送風・冷却機能の正常化といった「機能維持」の意味合いを持ちます。
    • 作業実費としての位置づけ:クロスや床材のように経年で価値が減少する部材とは異なり、分解洗浄は「原因となった汚損を除去するための作業」であるため、減価償却の概念は馴染まず、原因者である借主に実費を求める合理性があります。

実務上の説明では、「エアコンの構造上、結露が発生する点は前提として理解しています。そのうえで、乾燥運転やフィルター清掃といった基本的な手入れが行われず、通常清掃では回復できないレベルまでカビが定着している点が、今回の判断ポイントです」と伝えます。構造要因を否定せず、その後の管理行為に焦点を移すことで、借主の感情的反発を抑えつつ、合意形成を図りやすくなります。


Q37.「小さなキズや汚れでも、原状回復費用を請求されるのですか?」

【考え方の軸:「存在」ではなく「程度」と「募集への支障」で判断する。原状回復は傷探しではなく、商品価値の回復が目的】

この質問に対し実務者が整理すべきなのは、原状回復の判断基準は「キズの有無」ではなく、「次の入居者が違和感なく受け入れられる状態かどうか」という点です。賃貸物件はあくまで「商品」であり、通常の生活で生じる微細な変化まで借主に負担させる趣旨ではありません。

  • 通常損耗(請求対象外)とされる「生活の痕跡」
    以下のような状態は、通常の居住において不可避であり、原則として貸主負担となります。
    • 視認性の低さ:1.5m程度離れた位置から普通に見て、判別が困難なレベルの擦れや薄い汚れ。
    • 清掃可能な汚れ:市販の洗剤やスポンジ等で容易に除去できる手垢や軽微な付着物。
    • 不可避な変化:ポスター跡の日焼けや、下地まで達していない画鋲・ピンの穴。
  • 特別損耗(請求対象)となる「毀損」の判断ライン
    一方で、範囲が小さくても、次の入居希望者が内見時に明確な違和感や不満を抱くレベルのものは、借主負担の対象となります。
    • 物理的な凹凸:クロスの破れにより下地が露出している、フローリングが深くえぐれている。
    • 部分補修の限界:部屋の正面など目立つ位置にあり、リペアを行っても補修跡が明確に残る場合。
    • 管理姿勢が疑われる痕跡:タバコの焦げ跡、落書きなど、「丁寧に使用されていない」と第三者が判断する痕跡。
  • 実務における「合理性」の担保プロセス
    管理実務では、以下のステップを踏むことで請求の妥当性を整理します。
    1. 現場確認:写真に写り、第三者が見て判断可能な状態か。
    2. 手法の選別:安価なリペアで募集に耐えられるかを先に検討しているか。
    3. 負担の按分:貼り替えが必要な場合でも、経過年数を考慮した算定を行っているか。

実務上の説明では、「キズの数を数えているわけではありません。次の方が内見された際に、説明なしでそのまま募集できるかどうかを基準に判断しています」と伝えるのが有効です。『粗探し』ではなく『商品として成立させるための最低限の回復』であることを一貫して示すことが、不要な対立を防ぐ最大のポイントです。


まとめ

使用状況に関する争点は、「自然現象だから免責」ではなく「回避可能な管理をしていたか」「放置で被害を拡大させていないか」「募集に支障が出る程度か」で整理します。説明の要点は、設備・内装の“古さ”に議論を寄せず、原因と程度を具体的事実(写真・業者所見・範囲)で固定することです。

用語紹介

通常損耗
通常の使用により自然に生じる傷みや劣化を指します。次の募集に向けた標準的な清掃・手入れで回復できる範囲が中心です。
特別損耗(借主負担)
借主の故意・過失、または善管注意義務違反(管理不足)により生じた損耗を指します。放置による固着・腐食・強い臭気など、通常清掃で回復できない状態が典型です。
善管注意義務
借りた物件を、社会通念上求められる注意をもって使用・管理する義務を指します。換気・拭き取り・清掃・異常時の連絡など、日常管理が前提になります。
募集への支障
次の入居者募集において、内見時の印象や居住衛生に悪影響が出る状態を指します。「有無」ではなく「程度」の判断軸として用いられます。
特別清掃
通常のハウスクリーニング工程では対応できない汚損に対して行う追加清掃を指します。分解洗浄、研磨、薬品処理、消臭・消毒などが含まれます。
減価償却(残存価値)
部材の価値を経過年数に応じて評価する考え方です。部材の価値と、清掃・処分などの作業実費(工賃)を分けて整理することが重要です。

著者について

Taro

Administrator

首都圏在住。管理会社に勤務し、賃貸管理業に従事しています。 事業主側で不動産売買と収益物件の管理を経験し、その後、現在の管理会社に転身しました。 保有資格: 宅地建物取引士 賃貸不動産経営管理士

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【判例解説】更新料不払いと賃貸借契約解除(東京地判 平成29年9月28日)

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Taro 2026年1月24日 0

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