
はじめに
賃貸住宅において「どの設備があるか」は、立地や家賃と並んで入居者が物件を選ぶ重要な要素です。全国賃貸住宅新聞が毎年発表している人気設備ランキングからは、入居者ニーズの変化や市場の方向性がはっきりと読み取れます。
本記事では、2023〜2025年の人気設備ランキングをもとに、単身者向け・ファミリー向けそれぞれの設備ニーズの変遷を整理し、物件オーナーが取るべき戦略について解説します。
人気設備ランキングの三年推移
近年は、インターネット無料や高速インターネット、防犯関連設備、宅配ボックスなど「通信環境」「安心」「生活の効率化」を高める設備が上位を占めています。ここでは、2023〜2025年の単身者向け・ファミリー向けの人気設備ランキングTOP10を一覧し、どのような変化が起きているのかを確認します。
単身者向け人気設備TOP10(2023〜2025年)
| 順位 | 2025年 | 2024年 | 2023年 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 高速インターネット | インターネット無料 | インターネット無料 |
| 2位 | オートロック | 宅配ボックス | エントランスのオートロック |
| 3位 | インターネット無料 | エントランスのオートロック | 高速インターネット(1Gbps以上) |
| 4位 | 宅配ボックス | 高速インターネット(1Gbps以上) | 宅配ボックス |
| 5位 | 独立洗面台 | 浴室換気乾燥機 | 独立洗面台 |
| 6位 | 浴室換気乾燥機 | ペット用設備 | 浴室換気乾燥機 |
| 7位 | ガレージ | 独立洗面台 | システムキッチン |
| 8位 | 24時間ゴミ捨て場 | ガレージ | 防犯カメラ |
| 9位 | 都市ガス | システムキッチン | 24時間利用可能ゴミ置き場 |
| 10位 | エアコン | 追い焚き機能 | ウォークインクローゼット |
ファミリー向け人気設備TOP10(2023〜2025年)
| 順位 | 2025年 | 2024年 | 2023年 |
|---|---|---|---|
| 1位 | オートロック | インターネット無料 | インターネット無料 |
| 2位 | 高速インターネット | エントランスのオートロック | エントランスのオートロック |
| 3位 | インターネット無料 | 追いだき機能 | 追いだき機能 |
| 4位 | 宅配ボックス | 宅配ボックス | システムキッチン |
| 5位 | 追いだき機能 | 高速インターネット(1Gbps以上) | 宅配ボックス |
| 6位 | システムキッチン | システムキッチン | 高速インターネット(1Gbps以上) |
| 7位 | ガレージ | ペット用設備 | 浴室換気乾燥機 |
| 8位 | エアコン | ガレージ | 24時間利用可能ゴミ置き場 |
| 9位 | 都市ガス | 浴室換気乾燥機 | ウォークインクローゼット |
| 10位 | 24時間ゴミ捨て場 | エレベーター | ガレージ |
単身者向け物件の傾向
単身者向けでは、「インターネット無料」「高速インターネット」「オートロック」「宅配ボックス」といった、通信環境・防犯性・生活効率を高める設備が安定して上位にランクインしています。特に2025年には、高速インターネットが1位となっており、無料かどうかよりも「速度・安定性」が重視されていることが分かります。
また、防犯カメラやオートロックなどの防犯設備は、2023年から継続してランキング上位に入り続けています。都市部の単身女性を中心に、安心して暮らせる環境を求めるニーズが高く、築年数が古い物件でも、防犯設備を追加することで競争力を高めることができます。
さらに、24時間ゴミ捨て場やガレージなど、日々の生活のしやすさに直結する設備もランキングに顔を出しており、近年では都市ガスが上位に入る年も出てきています。ライフスタイルの多様化に合わせた「生活利便性の高さ」が評価されているといえます。
ファミリー向け物件の傾向
ファミリー向けでは、「インターネット無料」「高速インターネット」「オートロック」といった通信環境と防犯性に加え、「追いだき機能」「システムキッチン」「浴室換気乾燥機」「宅配ボックス」など、家事負担を軽減する設備が継続して人気です。
2025年にはオートロックが1位となり、防犯性の高さが最も重視されていることが読み取れます。子育て世帯や共働き世帯にとって、「安全で安心できる住環境」は物件選びの前提条件になりつつあります。
また、追いだき機能や浴室換気乾燥機、24時間ゴミ捨て場など、時間に制約のある家庭の家事を支える設備が毎年上位にランクインしている点も特徴です。生活時間の制約が大きいファミリー層では、「時短」と「省力化」を実現してくれる設備が選ばれやすくなっています。
設備トレンドの変化と背景
2023〜2025年のランキング推移からは、人気設備の傾向が「便利さ」だけでなく、「快適さ」「安心」「効率性」を重視する方向へシフトしていることが分かります。背景には、ライフスタイルの変化や働き方の多様化があります。
通信環境の高度化
単身・ファミリーともに、高速インターネットの順位が上がっており、通信品質が物件価値を左右する要素になっています。オンライン会議、動画配信サービス、オンラインゲーム、子どものオンライン学習など、家庭内で同時に通信を行う場面が増えたことで、「安定して速い回線」が求められています。
安心・安全へのニーズ
オートロックや防犯カメラなどの防犯設備は、両カテゴリーで上位を維持しています。特に、夜間の帰宅が多い単身者や子どものいるファミリー層では、「安全に出入りできる建物であること」が物件選びの条件になっています。
生活効率化設備の定番化
宅配ボックス、追いだき機能、浴室換気乾燥機、24時間ゴミ捨て場など、日々の家事や生活の負担を軽減する設備が、年を追うごとに「あると嬉しい」から「あることが前提」に近づきつつあります。こうした設備は、共働き世帯や不在時間の長い単身者にとって、暮らしの質を左右する重要なポイントです。
オーナーが取るべき方向性
人気設備ランキングの上位に挙がる設備をすべて導入する必要はありません。重要なのは、ターゲット層と競合状況に合わせて、投資の優先順位を整理することです。
例えば、単身者向け物件であれば「高速インターネット」「オートロック」「宅配ボックス」、ファミリー向け物件であれば「オートロック」「追いだき機能」「システムキッチン」など、入居者が重視する設備から優先的に整備することで、限られた予算でも効果的な空室対策ができます。
また、エリア内の競合物件がどの設備を備えているかを把握し、「他物件と比べて不足している部分」を補う形で設備投資を行うことも重要です。入居者アンケートや募集時の反響データを活用し、「どの設備が決め手になっているか」を定期的に検証していくことで、ムダの少ない投資判断が可能になります。
設備投資は一時的なコストではなく、長期的な入居率向上や物件価値の維持・向上につながる施策として位置づけるとよいでしょう。
まとめ
2023〜2025年の人気設備ランキングの推移から、賃貸住宅の人気設備は「便利さ」だけでなく、「快適さ」「安心」「効率性」を重視する方向へと進化していることが分かります。
単身者は通信環境と防犯性、生活のしやすさを重視し、ファミリー層は防犯性に加えて、家事負担を減らす設備を求める傾向が強まっています。オーナーは、自身の物件のターゲット層や競合状況を踏まえつつ、優先度の高い設備から段階的に投資を行うことで、長期的な安定経営につなげることができます。
市場のトレンドを定期的に確認し、小さな改善を積み重ねていくことが、今後の賃貸経営における大きな差別化要素となるでしょう。
用語紹介
- IoT設備
- インターネットを通じて家電や住宅設備を操作・管理できる仕組み。スマートロックや照明制御などが代表例。
- 宅配ボックス
- 不在時でも荷物を受け取れるボックス型設備。共働き世帯や単身者に人気。
- スマートロック
- スマホアプリなどで施錠・解錠ができる電子鍵システム。防犯性と利便性を両立する。