
はじめに
賃貸契約の初期費用では「敷金」「礼金」「保証金」という用語が並びます。しかし、名称は似ていても性質は異なり、返還の有無や精算方法にも差があります。さらに、特に敷金まわりは地域慣行によって取扱いが変わることがあり、募集・契約・退去時のトラブル要因になりがちです。本記事では、それぞれの違いと扱いを整理し、地域差と実務上の注意点をわかりやすく解説します。
用語の基本と扱い
敷金(しききん)
借主が貸主に預ける担保金です。退去時に未払賃料・原状回復費用などへ充当し、残額は返還されます。名称は同じでも、契約の特約や地域慣行で精算方法が異なる場合があります。
礼金(れいきん)
貸主への謝礼として授受される金銭で、返還されません。賃料の一部ではなく、契約成立時に発生する一時金です。
保証金(ほしょうきん)
目的としては敷金に近い預り金です。名称や精算の枠組みは地域・物件タイプで異なります。関西圏では「保証金+敷引き(償却)」という慣行が多く見られます。
敷金・礼金・保証金の違い(比較)
| 項目 | 目的 | 返還可否 | 主な使途 | 相場の目安(例) |
|---|---|---|---|---|
| 敷金 | 滞納・原状回復等への担保 | 原則返還(充当後の残額) | 未払賃料、原状回復費用の充当 | 0〜2か月分(地域・物件で差) |
| 礼金 | 契約成立の謝礼 | 返還なし | なし(謝礼性) | 0〜1か月分(ゼロ礼金物件も多い) |
| 保証金 | 滞納・原状回復等への担保(地域慣行) | 契約で定めた「敷引き・償却」を差し引いた残額 | 償却分を差引、残額返還 | 関西圏で月数多め設定+敷引き併用が目安 |
上表は一般的な整理です。実際の運用は契約書・重要事項説明の定めが優先されるため、実務では契約条項の具体的記載を必ず確認しましょう。
地域差(敷金・保証金・敷引きの慣行)
敷金や保証金の設定・精算は、地域慣行の影響を受けます。特に、関東圏では「敷金・礼金」の組合せが一般的である一方、関西圏では「保証金+敷引き(償却)」を用いる契約が多く見られます。九州など他地域でも、敷金と礼金の水準や“ゼロゼロ物件”の比率が地域市場によって変動します。
- 関東圏の傾向:敷金・礼金の設定が基本。敷金は退去時精算後に残額返還。礼金は返還なし。
- 関西圏の傾向:保証金を多めに預かり、契約で定めた「敷引き(償却)」を差し引いて返還。結果として「返還されない部分(敷引き)」の取り決めが重視されます。
- その他の地域:敷金・礼金の設定月数や、初期費用の慣習がエリアの需給状況で変化。新築供給や空室率の動向に応じてゼロ敷・ゼロ礼が増える局面もあります。
募集・説明では、その地域の慣例用語(保証金・敷引き など)を補足解説し、返還有無・精算方法を具体例で示すと誤解を防げます。
敷金の精算・返還と原状回復
敷金は、退去時に未払賃料・費用へ充当後、残額を返還するのが原則です。原状回復費用の範囲は、入居者の故意・過失・通常を超える損耗が負担対象であり、通常損耗や経年劣化は原則として貸主負担と整理するのが実務の主流です。
- 精算の基本:未払賃料等の充当 → 原状回復費用の精査 → 残額返還。
- 原状回復の考え方:通常損耗・経年劣化は原則貸主負担。特約で入居者負担を広げる場合は、明確・合理的で具体性のある記載が必要。
- 実務のコツ:入居時・退去時の状況を写真・チェックリストで記録、見積書・内訳書は項目別に提示。
- 参考資料:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」等の公的情報を案内(外部リンクを掲示)。
なお、地域慣行(敷引き・償却など)がある場合でも、契約書の条項が具体的にどう定めているかが最重要です。募集段階から用語と精算イメージを揃えて説明しましょう。
契約時に確認すべきポイント
- 用語の意味と返還可否:敷金・礼金・保証金・敷引き・償却の違いを明示。
- 敷金精算ルール:どの費用を敷金から差し引くか、残額返還の算定方法。
- 原状回復の範囲:通常損耗・経年劣化の扱い、特約の有無と内容。
- 地域慣行の説明:保証金・敷引