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第四回:デジタル遺言制度とは?賃貸オーナーが知っておくべき背景と具体的な制度設計案

Taro 2025年12月18日
目次
  • はじめに
  • なぜデジタル遺言が検討されているのか
  • デジタル遺言制度の基本的な考え方
  • 想定されている制度設計の具体案
  • 制度を支える技術とその役割
  • 海外における電子遺言の導入事例
  • 期待されるメリット
  • 現時点での課題と注意点
  • まとめ
  • 用語紹介

はじめに

第3回では、公正証書遺言が賃貸オーナーに選ばれる理由と、その高い安全性について解説しました。
また、既存の公正証書遺言についても、今後は手続きの一部がデジタル化される予定であることに触れました。

今回取り上げる「デジタル遺言制度」は、そうした既存制度の延長線上にあるものではなく、遺言の方式そのものを見直す新たな仕組みとして検討されているものです。

本記事では、公益社団法人商事法務研究会の「遺言制度のデジタル化に関する調査研究報告書」をもとに、デジタル遺言制度の背景、具体的な方式案、海外事例までを整理します。
賃貸オーナーが将来の選択肢として理解しておくための基礎知識をまとめていきます。

なぜデジタル遺言が検討されているのか

日本では遺言制度が整備されているにもかかわらず、実際に遺言を作成している人の割合は高くありません。
報告書でも、その背景として「手続きが難しい」「形式不備が不安」といった声が挙げられています。

自筆証書遺言は手軽ですが、全文手書きや形式要件の厳格さが負担になります。
一方、公正証書遺言は安全性が高い反面、費用や公証役場との調整が必要です。

こうした課題を踏まえ、デジタル技術を活用して「遺言を残すこと自体のハードルを下げる」仕組みとして、デジタル遺言制度が検討されるようになりました。


デジタル遺言制度の基本的な考え方

デジタル遺言制度は、現行の自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言とは異なる、新たな「第四の方式」として構想されています。

最大の特徴は、遺言を紙ではなく電子データとして作成・保存する点です。
パソコンやスマートフォンを利用し、電子的な方法で本人確認や意思確認を行うことが想定されています。

ただし、遺言は相続人間で争いが生じやすい場面で効力を持つため、「本当に本人の意思なのか」「後から改ざんされていないか」をどのように証明するかが制度設計の中心的な論点となっています。

想定されている制度設計の具体案

報告書では、デジタル遺言制度について複数の方式案が検討されています。
ここでは代表的な考え方を整理します。

A案:自宅作成型(自己完結型)

自宅で遺言を作成し、電子署名などを用いて本人の意思を確認する方式です。
手軽さが最大のメリットであり、賃貸オーナーにとっても時間的な負担が少なくなります。

一方で、データの管理や紛失、第三者による不正アクセスのリスクをどのように防ぐかが課題となります。

B案:公的機関提出型(集中管理型)

作成したデジタル遺言を、公的機関に提出・登録する方式です。
原本性や存在証明がしやすく、相続発生後に遺言が見つからないといった問題を防ぎやすくなります。

その反面、提出手続きや審査が必要となるため、自宅作成型に比べると手間がかかる可能性があります。


制度を支える技術とその役割

デジタル遺言制度を成り立たせるためには、いくつかの技術的要素が重要になります。

電子署名は、「その遺言が誰によって作成されたか」を証明するための仕組みです。
紙の署名や押印に代わる役割を果たします。

タイムスタンプは、「いつ作成されたデータか」を証明する技術です。
複数の遺言が存在する場合に、どれが最新かを判断するために重要になります。

また、ブロックチェーン技術についても、改ざんが極めて困難な記録方法として検討対象に挙げられています。
遺言内容そのものではなく、存在や変更履歴を記録する用途での活用が想定されています。

海外における電子遺言の導入事例

デジタル遺言制度は、日本だけで検討されているわけではありません。
海外ではすでに電子遺言を認めている国や地域も存在します。

例えば、アメリカではネバダ州などで電子遺言が認められています。
また、カナダのブリティッシュ・コロンビア州でも、電子的な方法による遺言作成が可能とされています。

これらの地域では、コロナ禍により対面での手続きが難しくなったことが、電子遺言導入の一つの契機となりました。
日本で議論されている背景とも共通点があります。


期待されるメリット

デジタル遺言制度が導入された場合、遺言作成の心理的・時間的ハードルが下がることが期待されます。

また、システムによるチェック機能により、形式不備による無効リスクが低減される可能性があります。

相続発生後に遺言が見つからないといった問題が減る点も、実務上の大きなメリットです。

現時点での課題と注意点

一方で、本人確認の厳格さや、デジタル機器に不慣れな人への配慮など、解決すべき課題も多く残されています。

現時点では、デジタル遺言制度は法制化されておらず、実際に利用できる制度ではありません。
将来の選択肢として理解しておくことが重要です。

まとめ

デジタル遺言制度は、現行の遺言制度を補完し、より多くの人が意思を残せるようにするための新たな仕組みとして検討されています。

賃貸オーナーにとっては、将来的に手間やコストを抑えながら相続対策を行える可能性がありますが、現時点では既存制度の中から最適な方法を選ぶことが重要です。

用語紹介

デジタル遺言
電子データを前提として作成・保管される新たな遺言方式として検討されている制度です。
電子署名
電子文書が本人によって作成されたことを証明する仕組みです。
タイムスタンプ
電子データが作成された時点を証明する技術です。
ブロックチェーン
取引履歴などを分散的に記録し、改ざんを防ぐ技術です。

著者について

Taro

Administrator

首都圏在住。管理会社に勤務し、賃貸管理業に従事しています。 事業主側で不動産売買と収益物件の管理を経験し、その後、現在の管理会社に転身しました。 保有資格: 宅地建物取引士 賃貸不動産経営管理士

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